NPO法人再生医療推進センター

No.014 コラム鵜の目鷹の目

脳と再生医療(1)脳の萎縮と再生医療

Q. 再生医療で認知症が良くなると聞きました 脳萎縮も治るのでしょうか?


A. 幹細胞治療で脳萎縮が改善するか?というご質問に対する現時点でのお答えは下記の通りになります。
  • 1.現在のところ脳の大きさが元の様に戻った方は確認されていない
  • 2.改善することが期待されているし、それだけの医学的根拠がある
  • 3.しかしながら、例えばMRIで見てわかる程回復するには相当の投与回数、時間がかかると見込める


(解説)

まず脳萎縮についてご説明いたします。

脳は、脳の神経細胞注1)だけでなく、それを支えたりする膠細胞(こうさいぼう:グリア)注2)、と血管(その中を流れる血液)とでできています。

認知症の一つであるアルツハイマー病では神経細胞が障害されますので神経細胞の数は減るのですが、一部の膠細胞は増えます。

膠細胞には3種類;①アストロサイト注3)、②ミクログリア注4)、③オリゴデンドロサイト注5)があります。

脳萎縮が生じる原因には、

  1. 神経細胞が減る
  2. 膠細胞が変化する
  3. 血流が減る

があります。

神経細胞が障害されると、①アストロサイトと②ミクログリアは増え(活性化します)、③オリゴデンドロサイトは減ります。①②は数が増え、大きくなるので、その分脳も大きくなるように思われるかも知れませんが、実際には脳萎縮が起こります。特に①は膠(にかわ)と呼ばれている通り、細胞同士をくっつける(細胞同士の距離を縮める)ように働くからです。減った神経細胞同士の隙間が狭くなるので脳は小さくなります。肝硬変という病気を聞かれたことがあるかと思いますが、肝硬変では肝細胞が減ると同時に”線維化注8)”が起こって肝臓は固く小さくなります。脳萎縮もこれと同様です。神経細胞の働きが低下すると脳血流も低下します。

脳萎縮が改善するには、

が必要です。

幹細胞に神経細胞修復能や神経細胞に分化する能力があることは確認されています。肝硬変に対する幹細胞治療も治療・研究が進んでいます(ここをクリックするとこの情報のpdfファイルをダウンロードします)。従って脳の線維化であるグリオーシスに対しても幹細胞治療の効果が期待されています。

血流については幹細胞治療で血管新生が生じ血流も改善することが確認されています。

以上から

幹細胞治療で脳萎縮が改善するか?というご質問に対する現時点でのお答えは下記の通りになります。

  1. 現在のところ脳の大きさが元の様に戻った方は確認されていない
  2. 改善することが期待されているし、それだけの医学的根拠がある
  3. しかしながら、例えばMRIで見てわかる程回復するには相当の投与回数、時間がかかると見込める

従って治療は早期に開始するほど効果も出やすいだろうし、逆に病気が進行してしまうと再生医療の効果が出るのにより長期にわたる治療が必要になるかも知れません。今後の発展と成果に期待したいと思います

(neuron / 2021.01.09)

(用語解説)

  • 注1.神経細胞:神経系をつかさどる細胞 人では脳や脊髄などに存在し、分化した細胞なので大人で分裂して増殖することは無いため癌化もしません(詳しくは,「脳の再生医療 基礎用語の解説」に掲載します)
  • 注2.膠細胞(こうさいぼう):脳の神経細胞を支える細胞 ①星状膠細胞(アストロサイト)、②小膠細胞(ミクログリア)③乏突起細胞(オリゴデンドロサイト)の3種類があります
  • 注3.アストロサイト:星状膠細胞(せいじょうこうさいぼう)脳の神経細胞を支える働きをします 傷を受けると増殖し傷口の修復にあたります
  • 注4.ミクログリア:脳における白血球のように傷や異物と戦う細胞 脳で炎症が起こると活性化されます
  • 注5.オリゴデンドロサイト:神経軸索を作る細胞
  • 注6.神経軸索(しんけいじくさく):神経から延びる突起 神経細胞の一部ですが長いものでは1mのも及びます
  • 注7.髄鞘(ずいしょう):神経軸索を覆うさや 神経伝達(情報伝達)を早くする仕組みです
  • 注8.線維化:本来の細胞が失われたときに他の細胞が増えてそれを補おうとして起こります 脳では神経細胞が減るとアストロサイトが増えます 水田を放置した時に稲が枯れて雑草が茂った状態を思い浮かべていただけたら良いかも知れません 因みに医学では繊維と書かずに線維と書きます
  • 注9.グリオーシス:脳では障害がおこると膠細胞、特にアストロサイトとミクログリアが活性化されます その状態をグリオーシスと呼びます