専門分野: その他
Q: 原発性硬化性胆管炎に関する再生医療
私は原発性硬化性胆管炎を患い、アメリカで脳死肝移植を受けた者です。 再生医療に関し、以下の質問があります: 1.移植肝臓を土台にして、そこに自己のiPS細胞を注入し、肝臓を作成していくことは可能でしょうか? 徐々に自己の再生肝臓の割合を増やしていき、最終的には移植肝に取って代わるようなものです。 1つの細胞から、直接、肝臓を作成するより、移植肝を借りて作成する方が、作り易いイメージがあるのですが。 2.胆管の再生は可能でしょうか? 原発性硬化性胆管炎で胆管がダメになった場合、もし胆管を再生することができれば、肝臓移植を受ける必要がなくなるのではと考えるのですが。 以上、ご回答宜しくお願い申し上げます。
掲載日: 2008.9.27
A:
ご自身が経験された肝臓と胆管、さらに移植肝の再生医療についてのご質問です。項目ごとにお答え致します。 Q1.移植肝臓を土台にして、そこに自己のiPS細胞を注入し、肝臓を作成していくことは可能でしょうか? 未分化なiPS細胞を直接注入した場合、全ての細胞が肝臓の細胞になることはまず期待できないと思われます。おそらく、どこかに生着した細胞は、その場所で無制限に増殖と分化を始めてしまい、奇形腫を形成してしまうものと想定されます。このような腫瘍の形成は、ES細胞やiPS細胞を移植した場合に危惧される大きな問題で、これが解決されない限り、これらに由来する細胞をそのまま移植するような再生医療は実現できないもの考えられます。一方、あらかじめ自己由来のiPS細胞を肝細胞に完全に分化させて奇形種の発生が無いものと想定しますと、注入した細胞は、移植肝の一部で生着し、一部は自己由来の肝細胞に置き換わることが期待できます。肝細胞に類似した細胞は、iPS細胞に限らず、何種類かの成人幹細胞(大人の体の中にある広い分化能を有する幹細胞、例えば骨髄由来の間葉系幹細胞など)からも誘導可能ですから、そのような細胞を体外で相当量作れるようになれば、利用可能になるかも知れません。 ご指摘のように、「1つの細胞から、直接、肝臓を作成するより、移植肝を借りて作成する方が、作り易い」と思われます。実際問題として、一種類の細胞から出発して、肝実質細胞や胆管、血管(門脈系と動脈系さらに静脈系の3系統)を有する肝臓という複雑で大きな臓器を作成することは至難の業と言わざるを得ません。そこで、組織工学の分野では、臓器提供された貴重な移植用の肝臓ではなくて、例えばブタの肝臓などから生きている細胞成分を除去して、もとの微細な構造を残した抜け殻のような細胞外マトリックスを作成し、それにヒト由来の肝細胞や血管の細胞を植え付けて体外で肝臓を作成するというような戦略も考えられています。 Q2.胆管の再生は可能でしょうか? 少なくとも実験的には、肝臓外の部分的な胆管の再生は体内で徐々に分解される人工的な管で置き換えることによって可能ですが、原発性硬化性胆管炎では肝臓の内部を含めて胆管が広範囲に障害されますので、この方法では間に合いません。一方、原発性硬化性胆管炎の場合、厳密には病気の原因は不明ですが、自己免疫の関与が想定されています。自己免疫が関与する多くの病気し対して、細胞を用いて免疫応答を調節する治療法も研究されていますので、一度障害された胆管の再生は自然の再生力に任せて、原因となる胆管の持続的な炎症自体を鎮めてしまうような根本的な治療法の開発が期待されます。
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