専門分野: 骨・軟骨
Q: 辱創治療について
約20年前、交通事故で脊髄損傷による両下肢麻痺(常時車椅子)になりました。4年前から、左座骨に辱創ができフィブラストスプレーなどを含め様々な軟膏を使用し、治療していますが、なかなか完治しません(月〜金は仕事があるため)。 テレビで放送されている再生医療の粉は、治療に効果はありますか?効果がある場合、どこの病院で治療できますか。
掲載日: 2008.11.24
A:
脊髄損傷後に生じた左座骨部の褥瘡が治りにくいとのこと、お見舞い申し上げます。 さて、このような場合に「魔法の粉」が有効かどうかというご質問ですが、私の考えでは、多少は有効かもしれませんが、特効薬にはならないと思います。 まず、褥瘡ができる機序は、慢性的な圧迫による虚血(その部分の組織に血液が十分流れない状態)によって皮膚・皮下組織などが壊死に陥ることであると考えられます。従って、褥瘡の予防法としては、1?2時間ごとに姿勢を変えるなどして、特定の部位への慢性的な圧迫を避けることが大切なのですが、この原因(圧迫)が十分に取り除けない状況では、「魔法の粉」で組織の再生力をいくら高めても、血流が不足して再生のための酸素や栄養分が届きませんので、十分な治療効果が期待できません。この点では、ご相談にもありますように、月曜日から金曜日まで座った姿勢(体重の大部分がお尻の座骨部にかかっています)で仕事をされていることが影響しているものと推察されます。 一般的な褥瘡の治療としては、 1. 原因となる慢性的な圧迫を軽減する。 2. 壊死組織を除去して感染をコントロールする。 3. 薬剤によって組織再生の促進をはかる。 という順番になり、いくら3だけを行っても、その前1や2の条件が整わなければ十分な効果は望めません。仕事中の定期的な体位変換やドーナツ枕を工夫していただくなど、まずは圧迫を軽減することが大切かと思います。 また、塩基性線維芽細胞増殖因子の製剤であるフィブラストスプレーは、血管新生を促進し、肉芽(創部に形成される治癒のための組織)の形成を促進して難易性の潰瘍性病変(褥瘡もこの一種です)の治癒を促進する画期的な薬剤です。ただし、噴霧後すぐにガーゼを当てると、薬剤が吸い取られて十分な効果を発揮しませんし、創部が乾燥すると組織再生が妨げられますので、創部の状況に応じて最適なドレッシング材料を選択することも大切です。 なお、実際の治療は、担当の医師と十分に相談して行っていただくようお願い致します。治療奏功して早く治ることを祈念致します。
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