専門分野: 眼
Q: サルでの色弱治療成功を受けて
サルの色弱が治療できるようになったというニュースが9月ごろに話題になりました。(「サル 色覚 治療」などと検索すれば今でもその記事を見られます。)色弱者の一人としては、サルでの治療成功とのことで、次こそ人間に適用できるのではないか、と胸が躍るような話でした。色弱の治療のことについては既に質問がありますが、サルでの治療成功を受けて改めてお尋ねします。 今まで色弱はその性質上、絶対に治療できないというのが一般論でしたが、サルの治療成功を受けて人間における色弱に対する概念も変わりつつあるのでしょうか。そして、近い将来、人間でも治療が可能になるのでしょうか。
掲載日: 2010.1.28
A:
ご相談の研究結果は、2009年10月8日のネイチャー(461巻784から788ページ、Mancuso K他、Gene therapy for red-green colour blindness in adult primates. )に詳しく報告されています。概要は、事前に画面の色模様に反応するよう訓練された赤-緑色覚異常のリスザル(青と緑、赤と紫が区別できないことが確認されている)に対し、網膜で働きが悪い遺伝子を遺伝子治療(働く遺伝子を網膜内へアデノウイルスベクターで注入)したところ、この遺伝子がしっかりと発現してくる時期に対応する治療後20週間頃から、青と緑、赤と紫の区別ができるようになった、というものです。(日本語要約がNature Japanのウエッブページ http://www.nature.com/nature/journal/v461/n7265/fp/nature08401_ja.htmlにあります。) そこで今回のご相談ですが、結論から申しますと、この研究結果によって人間でも治療できる可能性が大きく広がりました。 少し難しいお話になるかもしれませんが、「色弱はその性質上、絶対に治療できない」と従来から信じられて来た主な理由は、このような人では特定の波長帯の光を認識することができないため、この領域の光の強弱による色の違いを認識する神経回路が発達する事が無く、従って、大人になってから網膜でこの領域の光を感じることが可能になったとしても、それを色の違いとして認識することは困難であろうというものでした。しかし、今回の実験は、大人のサルがそれまで区別できなかった色を識別できるようになった訳ですから、従来の考えを根本的に改めなければならないのは明らかです。このあたりの詳細は、ネイチャーの同じ巻にやや詳しい解説があります(737-739ページ、Shapley R、Gene therapy in colour. )。 当今回の研究で色覚異常を遺伝子治療で治せる可能性が大きく広がったことから、再生医療の主要な治療手段である細胞移植よりも、遺伝子治療(広い意味では再生医療かもしれませんが、従事する研究者の顔ぶれはかなり異なります)での研究が盛んになり、人での臨床研究も近い将来行われる可能性があるのではないかと思います。
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