専門分野: 心臓・血管
Q: 成熟血球を得る技術
再生医療の雑誌を読んでいると、「解決すべき問題は多いが、赤血球、血小板をはじめとした成熟血球を得る技術は確立されている」とありますが、もし 臨床応用されるとしたら、どの位の時期になるのでしょうか?教えて頂けませんでしょうか?
掲載日: 2011.4.3
A:
確かに、ES細胞やiPS細胞などから赤血球や血小板の元になる赤芽球や巨核球を分化させて、試験管内で赤血球や血小板を作製することが可能になっています。血液中に含まれるこれらの血球は元々核を持たず、分裂もしませんので、混入が危惧される未分化細胞を放射線照射などで殺してしまうような処置を加えれば、腫瘍化の心配がない血球が得られ、安心して輸血に使うことができます。この点では、ESやiPS細胞を利用した各種の再生医療の中でも最も安全性が確保しやすい領域と思われます。但し、解決すべき問題の一つとして、例えば赤血球の場合、ヘモグロビンには幾つかの型があって、胎児型ではなく成人型のヘモグロビンを十分に含んでいるのが望ましいのですが、このような血球としての働きに関連する部分で、正常な血球とどの程度まで同等のものが作れるかという点は十分に検討される必要があります。 さて、臨床応用の時期についてのお尋ねですが、実際に臨床に応用する場合、科学的な有効性と安全性の確認とともに、その経済性というものが問題になります。現状では、赤血球も血小板も、献血からの成分輸血の形でほぼ十分な量が確保されており、それなりにリーズナブルな価格で提供されています。ES細胞やiPS細胞から良質な血球が多量に作製できるようになったと仮定して、これを現在の献血由来の血球製剤に取って代わるほど安価に生産できるようになる時期が来るのかどうかがまず問題です。一方、献血由来の血液製剤ではどうしても感染症の問題が払拭できませんが、ESやiPS由来であればそのような感染症の可能性を極限まで低下させることができます。この点では、将来、とんでもない感染症が蔓延して、献血由来の製剤が危なくて使えないような状況になってしまっても、その代わりにESやiPSから作れば良いということになりますから安心です。 以上のように考えると、ヒトに輸血することが可能な赤血球や血小板をESやiPS細胞などから作れるようになるのは比較的早い時期かも知れませんが、それらが実際の臨床で広く用いられるようになるのは何時の事か分からない、と予想するのが比較的確からしいように思われます。
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