専門分野: 歯周
Q: 歯の再生治療
今年の一月に歯の完全再生の動物実験が成功したとニュースでみました。 実際に治療できるようになるのはいつごろですか?
掲載日: 2011.4.22
A:
ご相談の「ニュース」は、日本歯科大学の中村貴先生等のご研究と思います。研究室のホームページ( http://www.tky.ndu.ac.jp/faculty/87.html )にその内容が紹介されています。以下にその「概要」の部分を引用(一部改変)させていただきます。 (ここから引用) 世界初の、体外で完全な歯の培養成功 研究チーム: 生命歯学部発生・再生医科学中原貴教授、再生医科学研究室石川博客員教授、新潟生命歯学部歯周病学講座佐藤聡教授らグループ 実験内容: 生後5日のマウスの歯冠を、人の歯根膜細胞のシートなどで培養。 4週間後に象牙質、歯槽骨、歯根膜、血管、神経線維を認める、ほぼ完全な形の歯を再生。 成獣マウスに移植し、定着させる。 チタンインプラントに代わり、細胞組織からなる歯を使った、人に応用可能な再生医療。 体外培養により条件面などで操作しやすくなり、臨床応用に近づいた。 (ここまで引用) 「実際に治療できるようになるのはいつごろですか?」とのお尋ねですが、色々な条件が絡んできますので、すぐに答えがでるような問題ではありません。 まずは研究者の意欲の問題ですが、この点では臨床応用を強く意識して研究を推進されているようですから、他の条件が整えば実現する可能性が高いと思われます。 次に、科学的、技術的にどの程度難しい問題を解決できるかということになります。今回の研究では、マウスの未熟な歯を体外で培養して「ほぼ完全な形の歯を再生」したわけですが、ヒトに応用する場合、未熟な歯をどこに求めるか、また、ヒトの歯の大きさでも同様なことが可能か(ヒトに比べるとマウスの歯はずいぶん小さいです)など、いくつか越えなければならないハードルがあると思います。 さらに、技術的にヒトの歯を作ることができるようになったとしても、治療としての有効性や安全性を十分に検討する必要があります。順序としては、より大きな動物を使った実験を成功させた後に、臨床研究へと進むことになりますが、ヒトに初めて応用する場合のハードルは決して低いものではありません。 そして、大変重要な条件として、このような研究を発展させるための資金や人材を持続的に得ることができるかどうか、という問題があります。この問題は研究者のがんばりだけでは解決せず、社会の強い支持をうけて公的資金を注入するとか、事業の将来性に期待する多額の投資マネーを集めるとか、どういう形にせよ、社会的・経済的な支援体制を構築することが不可欠です。 このようなことは全て人間がやることで、自然に起こることではありません。そういう意味では、「いつごろ実現するか」ではなく「いつまでに実現させる」という意思(研究者だけでなく、それを支援する患者さんや社会一般の決意です)の問題と思います。歯に限らず、色々な再生医療の芽が育っています。この芽を実際に役立たせるかどうかは、研究を取り巻く社会の意思と実行力にかかっているのだと思います。応援よろしくお願いします。
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