医学では、薬など(紫外線,放射線,化学物質,医薬品 など)の人への影響を調べる時に,まず試験管内(in vitro)で実験を行います。対象となる組織由来の細胞をシャーレに播種して培養してそこで薬などの効果を調べます。具体的には培養している組織や細胞に紫外線や放射線を照射したり培地に化学物質や医薬品を溶かしたりして組織や細胞に変化が出るかどうかを調べます。例えば生存率、遺伝子発現、色々な分泌物の測定をします。人体実験ではないので安全です。試験管実験でヒトへの作用をある程度類推することができます。しかし、この方法は二次元培養ですので,三次元の組織や臓器に当てはまらないことがあります。
近年,ES細胞,iPS細胞,体性幹細胞などの多能性幹細胞の技術的進歩により,例えばオルガノイドと呼ばれるような臓器に近い組織が作成出来るようになりました。これは言わば三次元の組織ですから、試験管内での実験であっても、二次元の培養実験に比べてはるかに生体(in vivo)に近い情報が得られます。
現在社会では電気、水道、通信(インターネット)などが連絡しあっています。ヒトでも神経、血管、リンパ管、消化吸収排泄器官などのネットワークが連絡しあい協力しあって一人の個体つくっています。生命活動においてもネットワークは欠かせません。
試験管での実験では仮に個別の臓器を作ることが出来たとしても臓器同士のネットワークは再現できていませんでした。
最近,再生技術で作られたオルガノイドレベル(疑似臓器レベル)の脳、肝臓、腸、結腸をそれぞれ部品(カートリッジ)にし,レゴブロックのように組み合わせて擬似人体モデルを作ったとの報告がありました1)~3)。脳と体の強固な関係性を発見したと述べています。他臓器と接続することにより培養脳は、恒常性遺伝子(生命に必要な基本遺伝子)を活発に働かせ、生体と同じように糖やコレステロールの代謝を行いました。また,脳カートリッジをパーキンソン病脳カートリッジに交換すると、腸カートリッジがパーキンソン病を悪化させる短鎖脂肪酸を作るようになりました。脳カートリッジが病気になると腸カートリッジに悪影響を及ぼし、それがまた脳カートリッジを悪化させたのです。この結果はマウスで、腸内細菌の変化がパーキンソン病の悪化の原因であるとする、既存の研究結果と一致します。
身体ネットワークを擬似再現したES細胞,iPS細胞,体性幹細胞などの多能性幹細胞から作成された人工臓器による身体モデルは二次元レベルの実験を三次元レベルにし、さらには臓器レベルの連絡を再現することによって、よりヒト生体に近い研究が試験管の中でできるようになります。創薬において大きな貢献をすることが期待されます。
マトメ:幹細胞を用いることによってヒトの病気治療薬開発が進歩します。
試験管での研究でも、幹細胞によってこうした“レベルアップ”が実現されます。
脳と他臓器との関係性については今後別の記事として詳細に報告したいと思います。
(参考資料)
(adipocyte+neuron/20210215)
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