遺伝子を直接体内に入れて働かせることで病気を治療する遺伝子治療薬が、厚生労働省の専門家会議で、2019年2月20日、承認が了承されました。了承された遺伝子治療薬は、足の血管を再生する薬と血液がん治療薬です。欧米の製薬企業が開発で先行するなか、血管再生薬については日本企業初の承認事例となります。遺伝子治療薬は次世代の薬としてアメリカなどで相次いで承認されていて、国内でも今後、臨床での応用が進むとみられています。両薬は近く厚生労働大臣が正式承認し、価格決定と公的医療保険適用の手続きに入ることになります。
足の血管再生で承認されたのは、重症虚血肢a)の治療のため、バイオベンチャー企業のアンジェスb)が申請していた遺伝子治療薬(ベペルミノゲン ペルプラスミド:商品名:コラテジェン)です。重症の動脈硬化で血管がつまった足に、新たな血管を作る遺伝子を注射して治療します。糖尿病患者などに多く、重症になると足の切断もある閉塞性動脈硬化症などが対象です。臨床試験では、患者さんの約7割で症状が改善したそうです。同社によると、治療対象の患者は年5000〜2万人です。正式承認を経た後に、薬価は今年5月にも決まる予定です。関係者によりますと、治療費は1人当たり200万~300万円になるよう設定されるとの見方があります。なお、専門家会議は5年以内に有効性を検証することを条件にしています。
またスイス製薬大手のノバルティスが開発した白血病などのがんを治療する「キムリア」の承認も了承されました。患者さんのリンパ球の一種の免疫細胞を取り出し、米国のノバルティス社の施設で遺伝子改変し、がん細胞への攻撃力を高めてから体内に戻します。「CAR—T細胞療法」と呼ばれ、欧米では既に承認されています。子どもや若者に多い「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」と、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」が対象です。治療対象は、抗がん剤など既存の治療が効かない25歳以下の患者さんと再発患者さんで、国内に年約250人と予測されています。臨床試験では白血病患者の約8割、リンパ腫患者の約5割で症状が大幅に改善したそうです。1回の投与で済み、高い治療効果が報告されていますが、先行して承認した米国では約5000万円と高額です。患者さんの自己負担は所得に応じ数万~数十万円で、残りは公費で賄われる見通しのため、対象患者さんが広がれば医療財政に大きく影響するとの指摘もあります。
遺伝子治療薬は従来治療の難しかった病気を治すと期待されています。様々な病気で原因が突き止められ、遺伝子治療薬の有効性を示す報告も増えてきています。今までに世界で承認されているのは約10製品です。米国では今後、毎年約10品目が承認される見通しだそうです。日本でも、毎年複数の製品が発売されそうです。
遺伝子治療薬の実用化で日本は出遅れていました。低分子化合物やiPS細胞などの研究に予算や研究者が集まり、遺伝子治療の研究が停滞しました。従来15年ほどかかっていた新薬発売までの期間が、遺伝子治療薬なら数年に短縮でき、製薬企業のリスクを抑えると言われており、日本企業も相次ぎ開発に着手しています。一方で、薬価が高額のため社会保障費の増大につながり、財政を圧迫するとの懸念も指摘されています。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)