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再生医療用語集
No.47 再生医療トッピクス

iPS細胞から作製した角膜細胞、
患者さんに移植、世界初

No.25 再生医療トッピクスで「自家角膜上皮の製造販売を申請」をご紹介しましたが、これに関係する臨床研究が実施されたことが報じられました1-2)。NHKでは、昨夜(8/29)から今朝(8/30)の全国版ニュースで繰り返し報道されました。これらによりますと、大阪大学はiPS細胞由来の角膜細胞を世界で初めて患者さんの目に移植したと発表しました(2019年8月29日)。同大学医学部西田教授らが7月25日に臨床研究として同大学付属病院で手術を実施し、患者さんは8月23日に退院されたとのことです。同臨床研究は、年内に2人目の手術が予定されています。2022年度までに計4人の移植と経過観察を踏まえ、2025年ごろの保険適用を目指すとしています。


移植を受けた患者さんは、目の難病である角膜上皮幹細胞疲弊症注1)を患っていた40歳代の女性患者さんです。西田教授らのチームは京都大学に備蓄された第三者のiPS細胞(他家iPS細胞)から角膜の細胞を作製し、厚さ0.05mmのシート状に加工しました。同角膜シートを損傷した角膜を取り除いた後に移植しました。これまでのところ、患者さんの術後の経過は順調であり、副作用などは生じておらず、視力は日常生活に支障のない水準までに回復されたとのことです。


西田教授によると、角膜上皮幹細胞疲弊症は角膜を作る幹細胞がけがやウイルス感染、遺伝的な原因などで失われて発症するとのことです。我が国の患者数は年間数百人と推計されています。治療法は亡くなった人からの角膜移植ですが、提供者の不足が課題です。


iPS細胞による再生医療等の臨床研究は、理化学研究所などのチームが2014年、滲出型加齢黄斑変性注2)の患者さん自身の細胞から作製したiPS細胞(自家)で網膜細胞を作製し、移植する手術が最初でした。さらに2017年3月に、同チームは患者さん以外の細胞から作製したiPS細胞(他家)で網膜の細胞を作製し、滲出型加齢黄斑変性の患者さんに移植を実施しました(No.16 再生医療トッピクス:iPS細胞 臨床研究が本格化)。続いて、2018年に京都大学のチームがパーキンソン病の患者さんの脳にドパミン神経前駆細胞を移植する手術を行いました(No.17 再生医療トッピクス:iPS細胞 臨床研究が本格化(2))。この度の大阪大学の角膜細胞の移植手術が続きます。


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図1 心不全などに対する再医療等の取組状況(取組(1)の範囲)


(用語解説)

  • 注1.角膜上皮幹細胞疲弊症:結膜と角膜の境界領域である輪部に存在する角膜上皮幹細胞が、先天的もしくは外的要因によって消失することで発症する疾患です。角膜が混濁し、視力の低下や、眼痛などの臨床症状が見られます。
  • 注2.滲出型加齢黄斑変性:網膜のすぐ下に新しい血管ができて、この血管が黄斑(網膜の中心にある直径1.5mm~2mm程度の小さな部分)にダメージを与えます。

(参考資料)

  1. 毎日新聞:iPSから作った角膜細胞を世界で初めて患者の目に移植 大阪大、2019年8月29日
  2. 読売新聞:iPSから作った角膜細胞を世界で初めて患者の目に移植 大阪大、2019年8月29日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)