脊髄損傷は、主に高所からの転落や交通事故などの外傷により脊椎の中を走る脊髄が損傷された状態のことを指します。受傷時に脊椎の骨折や脱臼を伴うことが多く、頚椎高位での損傷では四肢の麻痺、胸椎高位での損傷では両下肢の麻痺を伴います。麻痺の程度によっては、麻痺の改善が極めて乏しいか、改善が認められないことも少なくありません。脊髄損傷によって起こり得る障害としては、四肢の運動・知覚障害、膀胱直腸障害などがあり、また、頚髄損傷では、横隔膜機能の障害に起因する呼吸機能障害も起こり得ます1)。
脊髄損傷は現在、わが国では約10万人の患者さんがおられ、年間日本では5,000人以上の患者さんが増加しているとさています。患者さんのほとんどが男性でしかも若年者が多いです。医療の進歩に伴い受傷後も生存すること自体は十分可能となっていますが、それだけに日常生活の不自由さや精神的な負担が長期間にわたり患者さんを苦しめる結果ともなっています2)。
我が国おける脊髄損傷に対する再生医療による先駆的な研究は、札幌医科大学医学部本望教授らが、脊髄損傷に対して自己培養骨髄間葉系幹細胞を再生医療等製品として薬機法注1)のもとで一般医療化するために、治験薬として医師主導治験を実施し、再生医療品等としての実用化が挙げられます3)。
再生医療は、難治性神経疾患である脊髄損傷に対して期待されており、世界的に各種の幹細胞を用いた臨床試験が行われました。2010年、米国のGeron社によって、ヒトES細胞由来の細胞製剤を脊髄損傷患者さんに対して移植する臨床試験を開始されましたが、翌年に臨床試験を中断しました。2013年にStem cell社はヒト胎児脳由来の神経幹細胞を脊髄損傷患者さんに対して移植する臨床試験を実施しましたが、2016年に試験を中断しました。両社に共通している点は、再生能力が高いと考えられている幹細胞あるいは前駆細胞を他家移植して、損傷部の局所に注入していることでした3)。
本望教授らは、2013年3月より、薬機法に基づき、「自家培養骨髄間葉系幹細胞(STR01:ステミラック注)」を再生医療品等製品の注射薬として脳梗塞患者さんに対する医師主導治験(第Ⅲ相、二重盲検無作為化試験、検証的試験)を開始し、同治験薬は、長年にわたる基礎研究に基づき、脊髄損傷にも治療効果が期待されることから医師主導治験(第Ⅱ相:非盲検試験、探索試験)を開始されました。
治験の概要ですが、自己血清を用いて自己骨髄間葉系細胞を2~3間で約1×108個まで培養し、治験薬(細胞製剤)を製造します。最終的に、治験薬が製造後品質検査で出荷基準を満足し、被験者さんの適格性も基準に合致していることを確認後、脊髄損傷受傷後、40日(±14日以内)に、末梢静脈内に30~60分かけて点滴静注を行います。評価は、投与6カ月後に、一般検査のほか、画像診断学的検査(MRIなど)、および臨床症状の評価を行い、安全性と有効性の評が行われます。
札幌医科大学と共同開発したニプロ(株)が承認申請された自家培養骨髄間葉系幹細胞は、2016年2月10日付で厚生労働省の再生医薬等製品の「先駆け審査指定制度注2」」の対象品目の指定を受けました。そして、地道な研究開発を経て、厚生労働省は、2018年11月21日に薬食審の再生医療等製品・生物由来技術部会を開催し、ニプロ(株)が承認申請された脊髄損傷治療に用いる「自家培養骨髄間葉系幹細胞:ステミラック注」が議題に上ることになりました。
自家培養骨髄間葉系幹細胞は脊髄損傷を対象疾患としますが、承認されれば、再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目では第1号となります。用いる間葉系幹細胞は、神経や血管に分化する能力を持ちます。患者さんの骨髄液から採取した間葉幹細胞を培養、体内に静注により戻すことで神経が再生し、脊髄損傷に伴う神経症候や機能障害の改善が期待されています。審査の結果を心より期待します。
なお、本望教授には当再生医療推進センターが主催しました講演活動(2006年11月10月)で「脳梗塞と再生医療-21世紀の夢の治療へ向けて-」と題してご講演頂いております。
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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