当再生医療トピックス、No.96「世界初iPS細胞由来免疫細胞によるがん治療の治験」で取組状況をご紹介しました。2020年10月14日にiPS細胞から作製した免疫細胞を、がんの患者さんに移植し、安全性や有効性を検討する治験を、理化学研究所と千葉大学の研究グループが開始したことが明らかになりました1)。
1.頭頸部がんを対象とするiPS-NKT細胞動注療法
千葉大学病院は耳や鼻、口の中、舌などにできるがんである頭頸部がんの新たな治療法として、がんに対して強い攻撃力を持つ免疫細胞「NKT細胞」を用いた治療法の開発を進めてこられましたが、さらなるの生存率の改善に向けて、理化学研究所と連携し、iPS細胞からNKT細胞を作製した「iPS-NKT細胞」注1)をヒトに投与する世界初の治療法を医師主導治験として行うこと発表しました(2020年6月30日)2),3)。
同治験の目的は、今までに「iPS-NKT細胞」が人の血管内に直接投与された取組はなく、人に対する「iPS-NKT細胞」の忍容性注2)、安全性、および有効性について評価することにあります。その試験デザインは単施設、非盲検、非対照、用量漸増試験からなります。対象疾患は標準治療後又は標準治療の適応とならない再発・進行頭頸部がんです。対象被験者数は4~18名です。
用いられる免疫細胞はナチュラルキラーT(NKT)細胞注3)と呼ばれ、がんを攻撃したり、ほかの免疫細胞を活性化させたりする働きがあります。ただ、人の血液中に0.01%程度しか存在しないために、実用化することは困難でした。千葉大学では、患者さん自身のNKT細胞を投与する臨床研究でも、頭頸部がんを小さくする効果を確認されています。しかし、治療に使える量まで同細胞を増やすのが難しかったそうです。また、進行がんの患者さんにはうまく機能しなかった場合もあったそうです。そのため、NKT細胞をiPS細胞にいったん戻すことで、治療に必要なNKT細胞の量と質を確保することに期待したとしています。
同治験計画では、健康な人の血液から採取したNKT細胞からiPS細胞を作製し、大量に増した後に、同iPS細胞を再びNKT細胞に変化させ、患者さんに注射します。NKT細胞をiPS細胞にすることにより、効率的にNKT細胞の量を増やすことが可能となり、細胞の質も安定しやすいとしています。
頭頸部がんは患部につながる血管から狙いやすく、作製されたNKT細胞はがん部位近くの動脈に注射されます。
治験では、1回約5千万個の細胞(患者さんの体格によって異なる)を2週間おきに計3回注射する計画です。iPS細胞にはがん化のおそれがあるとされ、他家細胞をもとにする場合には拒絶反応に対する懸念もあります。実用化に向けては安全性の確認が欠かせません。同グループは安全性と有効性が確認されれば、将来的に肺がんなどへの応用も見据えています。頭頸部がんよりも大量の細胞の注入が必要とされ、細胞の確保や安全性など超えるべきハードルも高いですが、患者さんの数も多く、死亡率も高いがんの治療にも生かされる可能性があると期待されます。
2.治験の開始
同グループによりますと、2020年10月14日、千葉大学医学部附属病院で頭頚部がんが進行するなどして手術や抗がん剤治療などが難しい患者1人に対し、iPS細胞から作製したNKT細胞約5000万個を手首から動脈を通じて病巣部に投与したそうです。他家NTK細胞を使うと、iPS細胞からNKT細胞に戻しやすく、患者さんに投与する十分な量をあらかじめ準備できます。この度の移植は、3回に分けて行われるうちの1回目で、これまでのところ患者さんに異常はないということです。同治験は2022年3月末までに、20~70歳代の患者4~18人に対し、2週間おきに最大3回投与する計画です。安全性と有効性の確認が目的で、同グループはNKT細胞や他の免疫細胞ががん細胞を攻撃し、がんの増殖を抑えることを期待しています。最終的に、合わせて数千万個のNKT細胞を移植したあと、2年かけて安全性や効果を慎重に確認するということです。NKT細胞は、もともとヒトの体内にある免疫細胞ですが、数が少ないことから、iPS細胞から大量に作り出すことで、がん治療への応用が期待されています。
(y. moriya / 2020.11.03)
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