本報では、急性期新原生脳閉栓症に対する自家骨髄単核球の静脈内投与の臨床研究と外傷性脳損傷及び脳梗塞に対する他家間葉系幹細胞による脳内直接投入の臨床試験ついて紹介致します。
国立循環器病研究センター病院(大阪府吹田市)及び先端医療センター病院(現神戸市立医療センター中央市民病院、神戸市)において“急性期心原性脳塞栓症患者に対する自己骨髄単核球静脈内投与に関する臨床研究”の Phase1/2a臨床試験が実施されてきました(2007年10月~2011年10月)1-3)。対象の患者さんは重症の心原性脳塞栓症症例で、かつ脳梗塞発症1 週間後においても神経機能回復が十分でない患者さんが対象でした。
国立循環器病研究センター病院における過去のデータより、これらの適格基準に合致する患者さんの予後は極めて悪く、また脳梗塞に伴う合併症が高頻度に起こることが判っていました。治療プロトコールの概略は、脳梗塞発症7日-10日目に、局所麻酔下で造血幹細胞を含む骨髄液を採取(低用量群6例は25 mL,高用量群6例は50mL)した後、比重遠心法を用いて単核球分画を分離し、採取日に静脈内に5分間で全量投与しました。
その結果、
が示されたとしています。
兵庫医科大学は、急性期脳梗塞患者に対し、自己骨髄単核球細胞を静脈内投与することによる、神経保護効果を検討する臨床試験の計画をし、既に倫理審査委員会の承認を得ており、臨床試験の準備を進めているとのことです4)。
2.外傷性脳損傷及び脳梗塞 他家間葉系幹細胞 脳内直接投入 臨床試験
サンバイオ社が開発している再生細胞薬「SB623」は、健常者の方の骨髄液から採取した間葉系幹細胞を大量培養して患者さんの脳に注射し、患者さん自身の細胞を刺激することで神経回路の再生を促すとしています。他家移植であるので量産化が可能です。
現時点で主な対象となるのは慢性期外傷性脳損傷と慢性期脳梗塞です。これまでの経緯は当センタートピックス、「No.14 再生医療トッピクス:間葉系幹細胞、再生医療等製品として製品化が先行」で確認できます。
再生細胞薬「SB623」は、慢性期外傷性脳損傷対象で2019年4月8日、厚生労働省から革新的医薬品を優先審査する先駆け審査指定制度の対象品目に指定されました。2019年4月16日に米国脳神経外科学会で日米臨床試験(フェーズ2)の詳細結果が発表されました5)。同試験では、SB623 投与群46 名、コントロール群15 名の合計61 名の被験者で行われました。主要評価項目はFMMS (Fugl-Meyer Motor Scale )のベースラインからの改善量としています。運動機能障害の変化を測定するFMMS において、10 点以上の改善は外傷性脳損傷における臨床的に意味のある改善量とされているようですが、本試験ではSB623 投与群18 名(39.1%)、コントロール群1 名(6.7%)で10 点以上を達成し、統計学的な有意差を認めたとしています(p 値=0.044)。新たな安全性の懸念は認められず、最も多かった有害事象は頭痛で、術後7 日までにSB623 投与群の34.4%に頭痛が発生しましたが、SB623 投与群とコントロール群で、有害事象発生率の統計学的な有意差はなかったとしています(p 値=0.25)。
同社は、外傷性脳損傷プログラムフェーズ3臨床試験を2020 年1 月期末までに開始する計画であり、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指すとしています5-6)。
一方、慢性期脳梗塞に対する開発状況は、米国でのフェーズ2b臨床試験の解析結果として発表されました7)。同試験は、慢性期脳梗塞に伴う運動機能障害を呈する患者さん163 例を対象に、SB623の有効性および安全性を検討しました。163例の患者は、同剤250万細胞投与群、同剤500万細胞投与群、Sham手術群(コントロール群)の3群に割り当てられました。 同試験の結果、投与6カ月後にFMMSがベースラインから10ポイント以上改善した患者の割合について、本剤投与群は、コントロール群と比較して、統計学的な 有意差を示さず、主要評価項目を達成できなかったとしています。安全性の問題は認められなかったようです。本試験の詳細結果は解析中であり、その結果を踏まえ、同社および大日本住友製薬(株)は、本剤の今後の開発計画を検討していくとしています。本試験の結果は、今後の学会等で発表する予定としています。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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