No.42 再生医療トピックスの中で、人体には神秘の巨大なネットワークが構築されており、各臓器がメッセージ物質を介して、ダイナミックな情報交換をすることで、絶妙に命を支えていることに触れました。その臓器の中でも腎臓は情報発信の中心、要であるようです。
腎臓は、「エポ:EPO」と呼ばれるメッセージ物質を全身に放出すると、骨には同物質を受け取る場所があり、これを受け取ると、赤血球を増産殖することで、酸素の取込み能力を高めます。また、「レニン:RENIN」というメッセージ物質によって血圧を調整していることも解明されています。さらに、体内に存在する塩分、糖分、カリウム、リンなど多くの成分を同時にしかも絶妙に正常域に収まるように調整してくれています。そのために、人体で最も複雑で精緻な臓器とされています。
腎臓などから放出される様々なメッセージ物質に耳を傾けることで、腎臓病に対する新たな治療戦略に基づく根本的な治療が近い将来に生まれるはずです。
端倪すべからざる様々なメッセージを情報通信ネットワークなどで、世界中に発信されているトランプ米大統領ですが、重い腎臓病の人に対する臓器移植の促進や、在宅での人工透析を増やすよう連邦政府に指示する大統領令に署名されました(2019年7月10日)1-2)。同大統領は腎臓病治療の進め方を大きく変える計画によって、病院などで人工透析を受ける患者さんを減らし、腎臓移植を増やすことを目指すとしています。
同大統領はより多くの患者さんに病院等ではなく、在宅で透析を受けるよう促すため、腎臓病治療向けのメディケア(高齢者・障害者向け医療保険)支出の調整を指示するようです。政権当局者らは、同提案が年間17,000件の腎臓移植増加にもつながると期待しています。同計画では腎臓病の早期診断や予防、人工腎臓の開発も促します。末期腎不全治療の大半はメディケアの支給対象となっています。
2013年にはメディケアから末期腎不全患者さん1人当たり62、000ドル(約675万円)余りが支給されました。治療時間などで患者さんの負担が大きく、費用も高い現行の通院型の人工透析を抑制し、生活の質の向上や医療費の削減につなげるとしています。なお、同国の慢性腎不全患者は約3700万人で、病状が悪化し透析が検討される末期腎不全患者は約73万人(人口は3.27億人、2018年)ですが、このうち腎臓を移植したか在宅の腹膜透析を受けている人は14%です。
人体の巨大ネットワークの要の一つである腎臓については、再生医療トッピクスNo.29で「腎臓再生 産学連携」についてご紹介しましたが、改めて慢性腎臓病などに対する再生医療等の取組ついて、取上げて見ました。日本における人工透析患者数は約33万人(人口は1.26億人、2018年)と推計されています。腎臓移植は、腎不全患者に対する有効な治療法であるものの、慢性的なドナー不足という社会的課題があります。
3.1 慢性腎臓病3-5)
慢性腎臓病とは、慢性的に腎臓が障害されたり、腎臓の働きが低下している状態の総称です。慢性腎臓病の原因は、生活習慣病などの全身疾患と腎臓事態の病気に分けられます。日本では慢性腎臓病の患者が約1,300万人と推計されています。腎機能が廃絶する腎不全に陥っても透析、あるいは移植により、生命を維持することは可能です。
しかし、現状ではドナー不足の状況にあるので、ほとんどの腎不全患者さんは透析に依存した生活を送られています。この透析患者さんは高齢化や糖尿病の拡がりにより急速に増えており、約33万人の患者さんが透析を行なわれています。透析患者さんは食事や生活の制限を余儀なくされます。また透析関連医療費は一人当たり年間約500万円を超え、その年間総額は1.5兆円以上にのぼるとされています。
腎臓病が進行して腎臓の働きが弱まり、腎不全といわれる状態になります。腎不全には、急激に腎臓の機能が低下する急性腎不全と、数か月から数十年の年月をかけて腎臓の働きがゆっくりと悪くなる慢性腎不全があります。急性腎不全では、適切な治療を行ことにより、腎臓の機能を悪化させている原因を除くことができれば、腎臓の機能が回復する可能性があります。一方、慢性腎不全では、腎不全の進行に伴って腎臓の機能が徐々に失われ、失われた腎機能が回復する見込みはほとんどありません。
3.2 進行した慢性腎臓病の治療3-5)
慢性腎臓病がかなり進行した場合は、腎臓の働きを代替させるために、透析療法(血液透析(透析器を介して老廃物などを取り除く)・腹膜透析(腹膜を介して老廃物などを取り除く)や腎臓移植(生体腎臓移植と献腎移植)が必要になります。透析療法を受けている患者さんのほとんどは血液透析を行っています。
腎臓移植には、腎臓を家族などから提供を受ける生体腎移植と、亡くなった人から提供を受ける献腎移植があります。現状、我が国では、脳死や心臓死による臓器提供が少ないこともあり、腎臓移植の実施件数は少ないです。QOLの改善や患者さんの生涯の医療費の削減といった観点からも腎臓移植は透析療法を上回っています。世界中で腎移植などを必要とする患者さんは530万人~1050万人と推計(国際腎臓学会(ISN)2018年7月公表)され、また2017年の腎臓移植希望登録数の約12,500件に対して、腎臓移植例は約1,750件と報告(日本移植学会2019年1月公表)されています。
3.3 再生医療技術による取組み
研究者の方々は、安心して誰もが治療を受けられる再生医療技術を確立し、慢性腎臓病患者さんを透析療法の負担から解放することを目指されています。再生医療の中でも、特に技術的なハードルが高いと考えられている腎臓再生に挑戦することにより、患者さんのQOLの改善と透析療法費用の削減に大きく寄与できます。
腎臓は、立体的な臓器の中でも最も再生が難しい臓器とされています。腎臓の再生医療についてですが、iPS細胞に期待が寄せられています。しかし、iPS細胞による臓器再生ロードマップ6)では、心臓、肝臓や血管などは、2025年までロードマップが作成されていますが、腎臓は現在のところ、基礎研究を終えるというところまでしか作成されていません。心臓や血管、角膜などはシートが作成されれば移植が可能ですが、腎臓や肺は全体に近いものを作成しなければならないからとされています。
2019年8月6日現在、厚生労働省に届出されている再生医療等提供計画7)には、慢性腎臓病に関する提供計画はありません(急性腎不全に対する自家末梢血CD34陽性細胞移植治療(医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院)が臨床研究として届出されています)。
次回から図1に記載しました再生医療等による慢性腎臓病、小児腎臓病などに対する研究をご紹介します。
図1 慢性腎臓病などに対する再生医療等の取組状況
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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