心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」という定義を日本循環器学会と日本心不全学会は2017年に発表しました(医学の専門用語としては「病気」ではありませんが、心臓が悪いことを総合的に表現する言葉して、「病気」と表現しています)1)。我が国の死因統計をみると、心疾患で亡くなる患者さんはガンに次いで多く、その中でも一番の死因が心不全です。心不全は、心臓の機能が低下し、必要な血液を体全体に送り出すことが出来なくなった状態を指しますが、心不全の原因は1つではなく、心筋梗塞、高血圧、心臓弁膜症、不整脈、心筋症、そのほかの生活習慣病、加齢などと様々なため、治療法もそれぞれに合ったものがとられます2)。しかしながら、心不全が重症化すると一般的な薬や手術では回復することは難しく、最終的には心臓移植しか患者さんを救う方法はありません。しかし、心臓移植も、深刻なドナー不足から患者さんの多くは移植を断念せざるを得ない状況にあります3)。
これまでの再生医療等による心不全対する主な取組は、図1及び当再生医療推進センターの再生医療トピックス 心不全などに対する再生医療等の取組(1)、(2)、(3)、(4)、(5)を参照ください。
当再生医療推進センターの再生医療トピックス、「No.50 心不全などに対する再生医療等の取組(4)(2019年9月17日)」でiPS細胞由来心血管系細胞多層体を作製し、重症心不全患者さんに移植による心筋再生治療の安全性と有効性の評価を目的とする前臨床試験についてご紹介しましたが、その後の取組についてお知らせいたします。
京都大学医学部附属病院心臓血管外科の湊谷教授らのグループは拡張型心筋症あるいは虚血性心筋症などの重症心不全患者さんの心筋再生治療を目的として、同大学iPS細胞研究所から提供される健常人HLAホモドナー由来iPS細胞から心血管系細胞を分化誘導し、シート化・積層化を行い、ヒトiPS細胞由来心血管系細胞多層体を作製して、重症心不全患者さんに移植による心筋再生治療の安全性と有効性の評価を目指されています4)。細胞シートを使用した幹細胞による心筋再生治療として、自家骨格筋筋芽細胞(再生医療トピックス No.36を参照ください)を用いた細胞シートが既に市販されています。湊谷教授らのグループの治療においては、治療抵抗性の患者さんが約30%存在することから、よりパラクライン効果注1)の高いiPS細胞を用いた細胞シートが望ましいと考えられています。加えて、積層体は、移植細胞を多量に長期間にわたる治療が期待できるとしています。外科治療と細胞移植を併用による新たな治療法を確立するために
などを検討されてきました。
湊谷教授らの研究チームがヒトiPS細胞由来心血管系細胞多層体を用いた臨床研究を行うことを計画されており、当該計画が同大特定認定再生医療等委員会によって承認されたようです5)。今後、同研究チームは厚生労働大臣に臨床研究の計画を提出する予定です。提出された計画は再生医療等提供基準に適合しているか審議され、提供基準に適合していると認められれば、臨床研究を実施することができます。iHeart Japan(株)は、当該臨床研究に用いる多層体の製造を京都大学から受託され、同研究チームは同社が製造される多層体を用いて臨床研究を実施する予定としています。
図1 心不全などに関する再生医療等取組
(用語解説)
(参考資料)
(y. moriya)
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