NPO法人再生医療推進センター

No.94 再生医療トッピクス

脂肪幹細胞で新型コロナウイルス感染症治療の治験

感染症治療の治験、ワクチンの開発、高感度迅速診断法の開発

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症に対する愁眉に急な課題である治療法・治療薬やワクチン、迅速診断用の簡易検査キットの開発に各国の研究機関等がしのぎを削っています。こうした中で、6月中旬に、大阪府内で幹細胞による治療薬とワクチンに対する臨床試験(治験)が進められていることが明らかになりました。さらに、6月22日に、同感染症の迅速診断として、唾液等から25分の反応で検出機器を必要とせず、目視で判定可能な、高感度迅速診断法の開発が発表されました。

脂肪幹細胞による治療に対する治験ですが、新型コロナウイルス感染症の患者さんに間葉系幹細胞を使って治療しようとする治験をロート製薬(株)(大阪市)と大阪大学附属病院などが計画されています。同社などによりますと、幹細胞を使った新型コロナウイルス感染症の治験は、米国や中国でも60以上の計画があるようです。米国では、骨髄由来の間葉系幹細胞を中等症や重症の患者12人に使ったところ、9人が10日以内に人工呼吸器を外すことができたとする結果もあるそうです。

また、ワクチンに対する治験ですが、NHKニュース番組(2020年6月17日)によりますと、大阪府吉村知事は、大阪大学や大阪市立大学と連携して開発を進めている新型コロナウイルス感染症のワクチンの実用化に向けて、6月30日から、医療従事者を対象に治験を行うことを明らかにしました。大阪府によりますと、ワクチンの治験は全国でも初めてだということです。吉村知事は6月17日の記者会見で、ワクチンの実用化に向けて、6月30日から大阪市立大学の医療従事者20人~30人を対象に、開発中のワクチンを投与する治験を行うことしています。安全性が確認できれば、本年10月に数百人規模で治験を行い、2020年内に20万人分のワクチンを製造し、2021年の春から秋にかけて国の認可を得て、実用化につなげたいとしています。

以下に、幹細胞移植に対する日本再生医療学会の声明の要旨と間葉系幹細胞を用いた治験についてご紹介いたします。併せて、上記のワクチン開発および高感度迅速診断法の開発もご紹介致します。


2.幹細胞移植に対する日本再生医療学会の声明

一般社団法人日本再生医療学会は新型コロナウイルス(COVID-19)治療を目的とした「幹細胞移植」に対する同学会の考え方に関する声明1)を発表したことを本再生医療推進センターの再生医療トピックスNo.89でご紹介しました。声明によりますと、「患者さんの治療に向け、世界中で研究が実施され、さまざまな薬剤やワクチンの開発だけでなく、「幹細胞」が持つ能力を利用した治療法の臨床試験が開始されています。一部の報道では幹細胞の投与が有効性を示すとするものもありますが、現時点においてはその有効性は仮説の段階であり、科学的な合意がなされている状態ではありません。また、各国の規制当局が「有効である」と確認した新型コロナウイルスに対する幹細胞治療はありません。日本再生医療学会は科学的および患者保護という観点から、自由診療として実施される新型コロナウイルス治療を目的とした幹細胞移植は支持しないことを表明します。」としています。

一方で「ただし、科学的な観点では一部の幹細胞が新型コロナウイルスの劇症化を抑制する可能性は、考えうるものであり、安全性や有効性を評価するために適切にデザインされた臨床試験によって幹細胞移植を評価することについては強く支持します。」としています。


3.幹細胞で新型コロナウイルス感染症治療の臨床試験(治験)計画

新型コロナウイルス感染症の患者さんに間葉系幹細胞を使って治療しようとする治験をロート製薬(株)と大阪大学附属病院が計画されています2),3)。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画を6月中にも届け出るとしています。新型コロナウイルス感染症の治療で幹細胞を使った治験は国内では初めてです。

新型コロナウイルス感染症の重症化は、免疫にかかわるたんぱく質が暴走し、細胞を傷つける「サイトカインストーム注1)」が関与しているとされています。同社によりますと、計画されている治験で使用される間葉系幹細胞は、過剰な免疫反応によって自身の体が攻撃されることを抑制する効果が期待されるとしています。当該治験では、他家脂肪幹細胞を使用されます。対象の患者さんは人工呼吸器を装着するなどした重症者です。週1回、1億個の細胞を計4回静脈に点滴し、大阪大学附属病院に入院された患者さんを中心に6人で安全性や有効性を調べる計画です。

なお、同脂肪幹細胞は、新潟大学医歯学総合病院で肝硬変の患者さんを対象にした治験で既に使われており、安全性は確認されているとしています。本再生医療推進センターの「No.38 再生医療トッピクス:肝硬変などに対する再生医療等の取組(1) 2.2肝硬変:他家脂肪由来間葉系幹細胞 静脈点滴投与 臨床試験」でご紹介しましたが、日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤の治験です。


4.新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発

アンジェス(株)は大阪大学発のバイオ企業ですが、大阪大学などと共同開発している新型コロナウイルス感染症に対するDNA(デオキシリボ核酸)ワクチン注2)について、3月26日から行っている動物へのワクチン投与で、抗体価注3)上昇が確認できたと発表しました(2020年5月25日)4)、5)。なお、今回、同社が確認したのは、マウスとラットへの投与で抗体価の上昇です。詳細は参考資料5をご参照くだい。


5.唾液により25分で目視による判定が可能な高感度迅速診断法の開発

塩野義製薬(株)は、日本大学、群馬大学、東京医科大学と新型コロナウイルスを含むウイルスの新規迅速診断法に関するライセンス契約に合意したと発表しました(2020年6月22日)6)。現在、新型コロナウイルス感染の有無を診断する検査法としては、鼻腔や咽頭、唾液から採取した検体からウイルスの核酸を検出するPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)や抗原検査キット等が使われていますが、専用測定器の必要性や、測定の簡便性、迅速性、検体採取時の医療従事者の感染リスク等の課題があるとされています。これらの課題を解決できる高感度かつ安価な診断法が期待されていました。

日本大学、群馬大学、東京医科大学からなる共同研究チームは、これまでにない全く新しい核酸増幅法(SATIC法)によるウイルス迅速診断法の開発に成功したと発表しました7)。SATIC法は、特定の遺伝子のみならず、変異遺伝子、さらにはタンパク質や代謝物などの生体内分子も、簡便な手法で特異的かつ高感度に測定できる技術としています。同SATIC法を感染症の原因となるウイルスに適用した迅速診断法は

等の特徴を有するとしています。


(用語解説)


(参考資料)

  1. 一般社団法人日本再生医療学会:COVID-19治療を目的とした幹細胞移植に対する日本再生医療学会の考え方、2020年5月22日
  2. 日テレニュース24:幹細胞投与をコロナ治療に 国内初の治験へ、2020年6月10日
  3. 朝日新聞DIGITAL:国内初、幹細胞で新型コロナ治療 ロート製薬が治験、2020年6月11日
  4. 日経バイオテク:アンジェス、新型コロナへのDNAワクチンの治験は7月に開始
  5. アンジェスウエブサイト::新型コロナウイルス感染症関連情報
  6. 塩野義製薬(株)プレスリリース:新型コロナウイルスを含む感染症領域のウイルス迅速診断法に関する日本大学、群馬大学、東京医科大学との業務提携について - 唾液等のサンプルから25分の反応で検出機器を必要とせず目視で判定可能な、高い感度をもつ迅速診断法 –、2020年6月22日
  7. 東京医科大学、日本大学プレスリリース:PCR法に代わる革新的核酸増幅法を用いたCOVID-19の迅速診断法の開発に成功-唾液などのサンプルから25分の反応で検出機器を必要とせず目視で判定-

(y. moriya)