NPO法人再生医療推進センター

No.99 再生医療トッピクス

重症下肢虚血症に対する脱分化脂肪細胞移植臨床試験の状況

血管に関する臨床研究等/血管形成を促進する自己組織化粒子ゲルの開発

1.はじめに

我が国の末梢動脈疾患は、高齢化や生活習慣様式の欧米化に伴って、年々増加しています。再生医療推進センターの再生医療トッピクスNo.91の「3次元構造を持つ人工血管の作製に成功、血管に関する臨床研究及び治療の状況」で、血管に関する臨床研究・治験の状況の一つとして、「重症下肢虚血症注1)に関する日本大学医学部の松本教授らによる脱分化脂肪細胞を用いた細胞治療の実用化」に関する取組のテーマ名のみをご紹介いたしました。ここでは同臨床試験の状況に対して取上げました。加えて、「血管に関する臨床研究並びに治療に関する再生医療等」と「血管形成を促進する低コストの自己組織化粒子ゲルの開発」について記しました。


2.重症下肢虚血症に関する脱分化脂肪細胞臨床試験の状況

2.1 臨床試験の背景

動脈硬化により足の血管が詰まる「閉塞性動脈硬化症(ASO)」は加齢や生活習慣様式の欧米化に伴い、増加しています。ASOの症状が進みますと、安静時でも足の痛みが生じ、進行しますと足に潰瘍が生じます。このような状態は「重症下肢虚血症(CLI)」と呼ばれています。CLIの予後は不良であり、発症1年後には30%の方が下肢切断に、25%の方が死亡に至るとされています。

近年、カテーテルを使った血管内治療やバイパス手術といった治療法に加え、新しい血管を作り出すことを目的とした細胞治療が試みられています。細胞治療はある程度血流を良くし、痛みを軽減することはできますが、予後に重要な足切断を回避する効果が明確には認められていないそうです。細胞治療において、使用する細胞の種類により、採取に伴う患者さんの負担が大きい、あるいは高齢の患者さんや糖尿病などの持病のある患者さんでは使った細胞では効果がないといったことが明らかになっています。


2.2 臨床試験の概要

日本大学医学部の松本教授らの研究グループが開発した「脱分化脂肪細胞(DFAT細胞(ディーファット細胞))注2):dedifferentiated fat cells」は、体中に豊富に存在する脂肪細胞を特殊な培養をすることによって作り出される多能性細胞です。これまでの研究により、DFAT細胞は、患者さんの年齢や基礎疾患に影響されず、高い血管を作りだす能力があることが明らかにされています。またiPS細胞と異なり、未分化な状態で移植しても腫瘍形成せず、安全に移植できることも確認されています。

同研究グループは、重症下肢虚血の患者さんから作ったDFAT細胞を血流の悪い下肢の筋肉内に注射することにより、血流を改善させ、足の切断を回避できるようになるのではないかという仮説を立てました。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、重症下肢虚血に対するDFAT細胞を用いた細胞治療の安全性と有効性を確かめる世界発の臨床研究を計画し、日本大学医学部附属板橋病院では、2020年3月より、「重症下肢虚血患者さんに対する脱分化脂肪細胞移植に関する臨床試験」を開始しています。


2.3 臨床試験の実施状況と今後の動き

2020年5月に1例目の患者さんにDFAT細胞移植を実施し、現在のところ特に問題なく、順調に経過しているとのことです。移植後1年間の経過観察を行い、本細胞移植療法の安全性と有効性を評価する予定です。

当該本臨床試験では、第1例目の移植を含めて、計6例の患者さんに対してDFAT細胞移植を実施する予定としています。同研究により安全性と有効性が確認されれば、既存の治療法に比べ、より低コストで実用性が高い血管再生医療の普及に寄与することが予想されます。将来的には心筋梗塞や脳梗塞後遺症などのより患者数の多い病気に適応を拡大する予定とのことです。

日本大学の研究グループにより開発されたDFAT細胞は、脂肪組織に微量に存在する幹細胞に似た形質を示し、骨、軟骨、脂肪、血管、心筋などへ分化する能力があるそうです。また細胞から分泌される液性因子の作用により、新しい血管を作って血流を良くする、あるいは傷を早く治すといった効果を示しとされています。DFAT細胞は、患者さんの年齢や基礎疾患に影響されずに、約1gの脂肪組織から安定した治療効果を示す細胞を作ることができるといった特長があるとされています。このことから、これまでの幹細胞を用いた再生医療等に比較して、患者さんの負担が軽減され、簡便で実用性の高い細胞治療が可能となることが期待されます。


3.血管に関する臨床研究並びに治療に関する再生医療等

再生医療推進センターの再生医療トッピクスNo.91で取上げました再生医療実用化研究事業と厚生労働省が公開している再生医療等提供計画に基づいてまとめました。

3.1 再生医療実用化研究事業のもとで研究開発支援中の臨床研究課題・治験課題

血管に関する臨床研究・治験の状況は次の通りです。

  1. ①重症下肢虚血:日本大学医学部 松本教授 重症下肢虚血に対する脱分化脂肪細胞(DFAT)を用いた細胞治療の実用化
  2. ②閉塞性動脈硬化症:京都府立医科大学大学院 的場教授 重症虚血肢に対し、筋組織酸素飽和度(StO2)をモニタリングする近赤外線分光装置(NIRS)を使用した至適運動療法を確立する研究
  3. ③細胞製人工血管:佐賀大学医学部 中山教授 バイオ3Dプリンタを用いて造形した小口径 Scaffold free細胞人工血管の臨床研究

3.2 第二種再生医療等・研究に関する提供計画

第二種再生医療等・研究に関する提供計画では次の通りです。

  1. ①下肢血管再生:医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院 自家末梢血CD34陽性細胞移植による下肢血管再生療法
  2. ②下肢血管再生:京都府立医科大学附属病院 バージャー病に対する自家骨髄単核球細胞を用いた治療
  3. ③重症虚血肢:新潟大学医歯学総合病院 重症虚血肢患者に対する体外増幅自己赤芽球移植による血管新生療法
  4. ④重症虚血肢:名古屋大学医学部附属病院 ヒト皮下脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法についての研究
  5. ⑤血管再生:熊本大学病院 末梢血単核球移植による治療

3.3 第二種再生医療等・治療に関する提供計画

第二種再生医療等・治療に関する提供計画では以下の通りです。

  1. ①動脈硬化症:北青山Dクリニック 自家脂肪由来間葉系幹細胞(局所注射投与)を用いた治療
  2. ②動脈硬化性心血管病変:医療法人社団HELENE表参道ヘレネクリニック 自家脂肪細胞由来間葉系細胞の培養ならびに静脈投与
  3. ③動脈硬化症:医療法人社団みき会サンフィールドクリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞治療
  4. ④動脈硬化症:東京プライベートクリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた動脈硬化症に対する治療
  5. ⑤脳血管障害:医療法人社団秀博会 BTRアーツ銀座クリニック 自己脂肪由来間葉系幹細胞を用いた脳血管障害
  6. ⑥血管再生:国立大学法人三重大学医学部附属病院 末梢血単核球移植による血管再生治療
  7. ⑦血管再生:京都府立医科大学附属病院 単核球細胞による血管再生療法
  8. ⑧血管新生:社会医療法人令和会熊本リハビリテーション病院 重症虚血肢に対する脂肪組織由来再生(幹)細胞を用いた血管新生療法
  9. ⑨重症下肢虚血:医療法人社団弘道会 第2西原クリニック 自己脂肪由来幹細胞を用いたバージャー病や糖尿病性足潰瘍などの疾患の治療
  10. ⑩脳血管障害:ヴィヴィアン美容クリニック 自己骨髄由来幹細胞を用いた脳血管障害の治療

4.血管形成を促進する低コストの自己組織化粒子ゲルの開発

国立研究開発法人物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の田口グループリーダーらからなる研究チームは、再生医療での細胞・組織移植で重要となる新しい血管の形成を促進させる低コストである自己組織化粒子ゲルを開発したと発表しました(2020年7月6日)3),4)

機能の失われた生体組織を再生するために、細胞懸濁液を注入する細胞移植、あるいは試験管内で細胞を集合化させた再生組織の移植等が実施されています。移植した細胞や組織を患部に生着させるためには、酸素や栄養分を供給するために必要な新たな血管形成が必要です。そこで血管新生を促すタンパク質である成長因子を用いる研究が行われています。しかし、成長因子は高価であり、また経時的に効果が低下しやすいため、成長因子を用いない血管新生の促進法が期待されていました。

同研究グループは、生体内で弱い炎症を引き起こし、細胞(マクロファージ)に作用して成長因子の産生を促進するリポ多糖(LPS)に着目しました。LPS分子が持つ12-14個の長さのアルキル基(炭素-炭素結合)を参考に、スケソウダラ由来ゼラチンに長さが12のアルキル基を導入し、球状粒子に成型しました。得られた粒子を生理食塩水と混合するとアルキル基同士の疎水的な相互作用により自己組織化ゲルが形成されます。同ゲルをマウスに注入すると、細胞に作用して成長因子が産生され、血管新生を促進させることを確認されました。注入したゲルは、治癒に伴い分解されて消滅したそうです。

当該材料を注入するだけで血管ネットワークの形成を促進することができるため、細胞や再生組織の移植前に同材料の注入により移植部位に血管床を形成させておき、その後、移植を行うことで効果的な生体機能の再建が期待できるとしています。また、高価で不活性化しやすい成長因子を用いないため、医療費の削減も期待できるとしています。この先、当該研究の成果をもとに医工連携研究を進め、再生医療分野や治療デバイスへの展開を目指していくとしています。


(用語解説)


(参考資料)

  1. 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)プレスリリース:重症下肢虚血患者に対する脱分化脂肪(DFAT)細胞移植に関する臨床試験の進捗について【経過報告】、2020年7月1日
  2. 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)ウエブサイト:重症下肢虚血に対する脱分化脂肪細胞(DFAT)を用いた細胞治療の実用化
  3. 国立研究開発法人物質・材料研究機構プレスリリース:血管の形成を促進する自己組織化粒子ゲルを開発 ~高価な成長因子の添加が不要 再生医療の基盤材料として期待~、2020年7月6日
  4. MONOist:血管形成を促進する低コストの自己組織化粒子ゲルの開発、2020年7月21日

(y. moriya)