専門分野:その他
臨床試験について
再生医療についてマウスで成功しても実用化には日本では、なぜ長いながい時間がかかるのですか?
掲載日: 2015.8.07
A:
ご指摘の通り、「マウスで○△疾患の治療に成功!」というような報道は多く、多くの場合「今後の治療応用に期待!」というような論調になっていると思います。しかし、実際にヒトで実用的な治療法になるまでには長い時間がかかり、また、多くの研究成果がマウスのレベルで止まっているのも事実かと思います。
医学的な立場で言いますと、マウスで成功した治療法は、サルやブタなどより大きな動物を用いた前臨床試験で安全性や有効性を確認して初めて、ヒトへの治療応用が検討できる段階に至ります。このような大動物での研究は、実施できる施設が限られている上に、マウスの実験に比べると桁違いのコストがかかり、通常の研究者が確保できる研究費ではとても行えないのが実態です。
実は、表皮や軟骨の再生医療はジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社(http://www.jpte.co.jp/)によって実用化され、適応症例は制限されるとしても保険適応になっていますが、我が国でこのレベルに達しているのは今のところこの2品目だけです。また、その他の再生医療、例えば角膜の再生医療、血管新生や免疫病治療のための間葉系幹細胞、心筋に使う筋肉シートなどは、企業が事業化することで実用化される見通しになっています。このように、新しい治療法が実用化されるということは、ほぼ企業による事業化(産業化)と同じことではないかと考えています。
そういう観点で考えますと、マウスで可能性が示された治療法をヒトに繋ぐようなビジネスは、ハイリスクで既存の大企業には向きませんので、ベンチャー企業の出番となりますが、日本では研究者がそのような起業をする風潮は非常に弱く、多くの研究者が論文を書いた時点でその研究を終了してしまっていると思います。
制度的にみますと、大学などの研究機関で研究されてきた再生医療はいわゆる「ヒト幹指針」で承認を受けて2007年から順次臨床研究が行われ、その後、先進医療などの形で、施設は限られますが実施されてきました。そのような状況の中で、再生医療の実現化ハイウエイ構想というような形で厚生労働省・文部科学省と経済産業省の連携が進み、再生医療新法の施行や薬事法の改正、さらに日本版NIHと言われる国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立など、再生医療実現化への条件が揃ってきました。
我が国ではベンチャー企業を育てる力がまだまだ不足しているとは思いますが、制度的な枠組みがはっきりしてきたおかげで、実用化までのロードマップを書くことが従来に比べて飛躍的に容易になったものと思われます。今後は、再生医療への参入を検討する大企業も増えて、マウスの実験から次の段階へ、さらに実用化へと進む新しい治療技術が増えてくるのではないかと期待されます。
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