再生医療相談室

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No.764 ミューズ細胞の今後の見通しについて

項 目

内 容

専門分野幹細胞など基礎
質問タイトルミューズ細胞の今後の見通しについて
質問内容

先日、三菱ケミカルがミューズ細胞の申請を当面の間見送ると発表がありました。ミューズ細胞の可能性に希望のを持ってた者としてはとてもショックを受けています。利益が出なければ企業にとってはノンメリットだと言う事は分かりますが、このような画期的な治療の普及を遅らせる事は国益を損なうに等しいと思います。ミューズ細胞によって機能が回復し再び社会に復帰出来れば納税も増えて微力ながらも景気に影響を与え活性化することは容易に想像出来ます。国と言うのはこのような画期的な治療に対して全面的に支援する機関や機能は無いのですか?申請は出来ないが、自己責任で希望する人には治療を受けるシステムは日本には無いのでしょうか?ミューズ細胞に希望の光を見ている患者は本当に多くの居られます。一日でも早いミューズ細胞の治療を受けられる事を切に望んでおります。

掲載日2022年01月04日
回 答

三菱ケミカルホールデングス(以下HDと略)の社長が外国人に代わって(交代したのは2021年4月)、事業を見直した結果、現在のMuse細胞の事業は見直すことが決まったようです(2021年12月1日の発表)。その後、三菱ケミカルHDが12月15日に再びMuse細胞に関する声明を出して、Muse細胞の承認については、「(前略)「条件及び期限付承認」ではなく、直接「本承認」の取得を目指すことと致しました。PMDA注1)も同様の見解であり、(後略)」とあり、本承認を目指す考えを明らかにしています。しかし、その中で「PMDAも同様の見解であり」というのが解せません。まさか、PMDAが、再生医療の条件及び期限付承認を今後はもうやらないということではないと思いますが、欧米の認可当局を中心に、この「条件及び期限付承認」に対する懸念が強いことは、このことからも事実のようです。12月1日の見解でも、今の状態では(PMDAが条件及び期限付承認を行ったとしても)米国やEU諸国の認可は難しいとの見解が出ていました。

と言うことで、今回のご相談ですが、「このような画期的な治療の普及を遅らせる事は国益を損なうに等しいと思います」と言うのは当然のこととは思いますが、会社の方針として本承認の取得を目指すことが決まったのであれば、それはそれでしょうがないとも思います。さらに、「国と言うのはこのような画期的な治療に対して全面的に支援する機関や機能は無いのですか?」に対しては、AMED注2)という機関があって、従来、文科省・厚労省・経産省などに分かれていた治療法などの研究費を、まとめて研究機関に払うようになりました。Muse細胞もここから結構な額のお金をいただいて研究を進めているはずですが、それは研究の範囲内であって、治験とか承認とかいう仕事になると、金額が大きいので(通常、数億円から上でどういう承認を目指すかにも関わってきます)、研究費レベルの金額(数百万円から数千万円)では足りません。

それと、「申請は出来ないが、自己責任で希望する人には治療を受けるシステムは日本には無いのでしょうか?」というご指摘に対しては、保険外診療という手があります、とお伝えしたいと思います。現実的に、現在、多くの再生医療がこの保険外診療で行われていますし(この一覧は厚生労働省のHPで提供しています)、再生医療以外の治療などもこのシステムを使って行われる場合があります(保険内診療と保険外診療を同時に行わないように注意する必要があります)。このHPには、認可を受けた治療法は掲載されておらず、大部分の再生医療による治療は保険外診療で行われています。保険外診療ですから、すべての医療費は患者さんが払わなくてはいけませんが、Muse細胞が同定可能であれば、このような診療も原理的には可能です。だた、Muse細胞の同定法の技術は一部の医療関係者しか知らないと思いますし、その人たちが保険外診療をやろうと思わない限り、実際には行われないと思います。

と言うことで、Muse細胞における条件及び期限付き承認などに関するお話でした。条件及び期限付き承認というのは、再生医療の特性(原料や方法によって出来てくるものが大きく異なる)を考慮して、多くの人にできるだけ早くその恩恵を受けてもらうためにPMDAやその関係者が考え出した我が国独自の制度なのですが、ここに来てそれが大きな問題になっているような気がします。Muse細胞の研究成果ができるだけ多くの患者さんにできるだけ早く届くことを祈念いたします。

(用語解説)

  • 注1 PMDA(ピーエムディーエー)(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)):独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、平成13年に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画を受けて、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構及び財団法人医療機器センターの一部の業務を統合し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づいて平成16年4月1日に設立され、業務を開始しました。PMDAは、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して、迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査し(承認審査)、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供を行う(安全対策)ことを通じて、国民保健の向上に貢献することを目的としています。(独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページより
  • 注2 AMED(エーメド)国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (Japan Agency for Medical Research and Development: AMED):平成27年に発足した国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency for Medical Research and Development)は、「成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元にお届けすること」を目指し、医療分野における基礎から実用化までの一貫した研究開発の推進と成果の実用化に向けた取組を行っています。AMEDの第2期中長期計画期間(令和2年度~)では、6つのモダリティ(医薬品、医療機器・ヘルスケア、再生・細胞・遺伝子治療、ゲノム・データ基盤、疾患基礎研究、シーズ開発・研究基盤)を軸にした統合プロジェクトにおいて、開発された新たな医療技術等を様々な疾患へ効果的に展開しています。また、現在及び将来の我が国において社会課題となる疾患分野(がん、生活習慣病、精神・神経疾患、老年医学・認知症、難病、成育、感染症等)に関連した研究開発は、6つの統合プロジェクトを横断する形で、統合プロジェクトのプログラムディレクター(PD)と疾患領域コーディネーター(DC)による執行管理の下で推進しています。(国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development: AMEDのホームページ理事長挨拶より