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元気の出る再生医療
コラム鵜の目鷹の目
再生医療用語集
No.38 再生医療トッピクス

肝硬変などに対する再生医療等の取組(1)


1.急性肝疾患と慢性肝疾患1-2)

数多くの肝疾患があり、その原因としては、アルコールやウイルス、肥満、遺伝、自己免疫疾患、薬剤、毒素、がんなどがあります。肝不全は、数日で生じる急性状態の結果である場合と、長期にゆっくり進行する慢性状態の場合があります。小児では急性肝不全の主な原因は、アセトアミノフェン中毒や代謝疾患、自己免疫疾患です。小児での慢性肝不全は、胆嚢と肝臓をつなぐ管が閉塞していることにより生じるものがほとんどです。これらとは対照的に、成人での急性肝不全は、ほとんどがウイルス性肝炎によるものです慢性肝不全の主な原因は、アルコールやC型肝炎により生じる肝硬変です。


2.再生医療技術による取り組み

新しい肝臓を移植することが、現時点では肝不全の治療に唯一効果的な治療法ですが、拒絶反応のリスクや、手術に伴うリスクなどの医学的な課題と、ドナーが少ないなどの社会的な課題があります。肝臓領域における再生医療の取り組みは、人工肝臓の開発や肝細胞を中心とした細胞移植療法などあります。


横浜市立大医学部の谷口英樹教授、武部貴則教授らのグループは、iPS細胞を用いてミニ肝臓を作り、重い肝臓病の乳児に移植する臨床研究計画について、2019年夏にも再生医療提供計画を審査する慶應義塾大学特定認定再生医療等委員会に申請する予定であることを「再生医療トッピクス No.20」で紹介致しました。


国立成育医療研究センターは、ES細胞から作製した肝細胞を、生まれつき重い肝臓病のある乳幼児に移植する医師主導の臨床試験を国に申請し、承認されたことは「No.21 再生医療トッピクス」で取上げました。また、肝硬変に対して他家脂肪由来間葉系幹細胞を静脈点滴投与する臨床試験を新潟大学大学院医歯学総合研究科とロート製薬株式会社が2017年7月に開始したことを「再生医療トッピクス No.22」で触れました。本報でも再度、記しました。


厚生労働省に届出されている再生医療等の提供計画3)によりますと、第2種再生医療等で肝硬変・肝障害に対して脂肪幹細胞を使用する研究は3件、治療は4件です(2019年6月30日現在)。


2.1 肝硬変:自家骨髄幹細胞投与療法 静脈点滴投与 臨床研究

山口大学医学部付属病院同病院では非代償性肝硬変患者さんに対する培養自己骨髄細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法の安全性に関する研究を安全性の検討を目的とし、2014年8月6日から開始されています4-5)。同臨床研究の手順は、患者さんの適確性を確認した後、局所麻酔あるいは静脈麻酔下に腸骨から約50mLの骨髄液を採取し、骨髄細胞の培養を約3週間行い、末梢静脈より培養した自己骨髄細胞を投与します。その後、培養自己骨髄細胞投与後、24週の時点までに生じた有害事象の発生頻度を評価します。


同治療法の作用の仕組みとして、肝臓に集積した骨髄間葉系幹細胞が、肝硬変の局所に働いて蓄積した線維を減少させるとしています。同臨床研究の目的は、主として安全性を確認することですが、投与6ヶ月後まで有害事象の発生頻度を観察し、併せて肝臓機能を調べて効果についても推測するとしています。


2.2 肝硬変:他家脂肪由来間葉系幹細胞 静脈点滴投与 臨床試験

◎新潟大学大学院医歯学総合研究科/ロート製薬株式会社

両者は日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤ADR-001の治験を開始することを発表しました(2017年7月)6-7)。同臨床試験の対象はC型肝炎か非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変患者さんで、15人を目標に2018/末までに治療の安全性や有効性を調べるとしています。


ロート製薬(株)が開発を進めている他家脂肪組織由来幹細胞を構成細胞とする細胞製剤は、脂肪組織に含まれる幹細胞を、動物由来のウイルス感染のリスクを考えた動物由来原料不含有で、脂肪由来幹細胞の能力を最大限に引き出す独自の無血清培地で培養しているとのことです。脂肪組織は組織中に多くの間葉系幹細胞を含み、採取時の侵襲性が比較的低く、手術時など余剰組織となるケースもあることから、比較的入手が容易 であり、他家脂肪細胞による同種移植のため、必要な患者さんに迅速に提供できるメリットもあります。投与は静脈内点滴投与のため患者さんの負担も少ないのが特徴です。現状、病状が進んだ肝硬変である非代償性肝硬変には有効な治療法はなく、同社は2020年度の条件・期限付き承認取得を目指しているとしています。


2.3 肝硬変:自家皮下脂肪組織由来再生(幹)細胞  経肝動脈投与 臨床研究

金沢大学医学部金子教授らは、肝硬変患者を対象として、自己の皮下脂肪組織由来間質細胞を培養せずに肝臓に投与する肝修復再生療法の臨床研究を2012年10月より実施されました8)。腹部あるいは臀部の皮下脂肪を標準的な脂肪吸引法(チューメセント法)にて採取し、採取した脂肪組織から、脂肪組織遠心分離器により間質細胞を分離した自己皮下脂肪組織由来間質細胞をカテーテルで肝動脈から肝臓へ直接与しました。投与後1か月間の安全性確認試験を4例に実施し、重篤な有害事象がないことを確認されました。現在、肝硬変患者を対象として、自家脂肪組織由来再生(幹)細胞(3.3×105cells/kg)を経肝動脈に投与する臨床研究を2017年10月より実施されています9)


(参考資料)

  1. 国立国際医療研究センター肝炎情報センターホームページ:肝硬変、2019年6月21日改訂
  2. NHK出版:肝臓週間!肝臓病徹底解説、きょうの健康、p56-p71、2017年7月
  3. 厚生労働省:届出された再生医療等提供計画の一覧
  4. 山口大学医学部付属病院プレスリリース:非代償性肝硬変患者に対する培養自己骨髄細胞肝動脈投与療法の臨床研究の開始、2016年7月1日
  5. 山口大学医学部付属病院プレスリリース:非代償性肝硬変患者に対する培養自己骨髄細胞を用いた低侵襲肝臓再生療法について(お知らせ)、2018年7月1日
  6. ロート製薬ホームページ:日本初、肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤ADR-001治験開始、2017年7月23日
  7. 朝日新聞:脂肪細胞の幹細胞で肝硬変治療 新潟大とロート製薬、2017年7月27日
  8. 臨床研究情報ポータルサイト:肝硬変に対する自己脂肪組織由来間質細胞の経肝動脈投与による肝再生療法の臨床研究 2012年10月17日、最終情報更新日2016年12月10日
  9. 臨床研究情報ポータルサイト:肝硬変に対する脂肪組織由来再生(幹)細胞の経肝動脈投与による肝再生療法の有効性及び安全性を検討する多施設協働非盲検非対照試験 2016年7月1日、最終情報更新日2019年6月14日

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)