ここでは、肝硬変等に対する再生医療等について、iPS細胞を用いた基礎研究及び創薬に関する研究、また他家脂肪由来間葉系幹細胞による再生医療等製品について取り上げました。
肝硬変などに関連した研究・治療で届出されている提供計画は、いずれも第二種再生医療等の範疇です。第二種再生医療等では、研究に関して、64件の届出がありますが、肝硬変などに関連した届出は3件です(2019年7月8日現在)。なお、以下の解説文の表現等は、再生医療等提供機関から届出された資料を引用しています。
◎東京医科歯科大学、東京大学、スタンフォード大学、東海大学
同大学大学院医歯学総合研究科肝臓病態制御学講座の柿沼教授と朝比奈教授、同消化器病態学分野の渡辺教授らの研究グループは、東京大学、スタンフォード大学、東海大学との共同研究で、ヒトiPS細胞から肝星細胞注1)を誘導・作製する培養系を新たに構築し、転写因子LHX2注2)がヒトiPS由来肝臓前駆細胞とヒトiPS由来肝星細胞との相互作用を促進することにより、ヒトiPS由来肝臓細胞の成熟化を促進することをつきとめたと発表しました1)(2019年2月14日)。
ヒトiPS由来肝星細胞には、未熟なiPS由来肝前駆細胞を成熟させる機能があり、同機能はLHX2発現を調節するとさらに促進されることを解明しました。これにより、ヒトiPS由来肝星細胞を利用するとヒトiPS由来肝細胞の未熟性を克服できる可能性を示し、将来的な肝再生医療への応用が期待されます。同時に、今回の技術を応用すると、様々な遺伝子発現を調節したヒトiPS由来肝星細胞を産生できるとしています。肝星細胞は肝硬変を治療するために重要な細胞ですが、今後、遺伝子発現を調節した多様なヒトiPS由来肝星細胞を使用して研究することにより、現状では有効な治療薬が乏しい肝硬変を治療するための創薬研究への基盤技術となることが期待されます。
◎横浜市立大学、DeNAライフサイエンス
非アルコール性脂肪肝疾患は、飲酒をしなくても生ずる脂肪肝で、肝硬変や肝臓がんなどにつながりやすいリスクが指摘されています。自覚症状がないことが多く、対策に不可欠である早期の発見が難く、同大によりますと、患者さんは、日本人のおよそ1-3割とも言われ、増加傾向にあるとのことです。同共同研究では、DeNAライフサイエンスの会員向け遺伝子検査サービスを活用し、この病気に関連する遺伝子を持つ人から血液の提供を受けます。これを基に、同大がiPS細胞を作製し、さらに、病因解明などに用いる「ミニ肝臓」を構築して、早期発見の指標となる物質の把握や、治療薬の開発につなげます2-3)(iPS細胞を活用したミニ肝臓の構築技術は、同大医学群臓器再生医学の武部貴則准教授を中心とした研究グループが確立したことを「再生医療トッピクスNo.20」で取上げました)。
すでに、DeNAライフサイエンスが2017年末から、同疾患関連の遺伝情報の抽出作業を開始しています。2017年度中に遺伝情報の解析やiPS細胞の作製を行い、2018年度以降に生体内の肝臓に近い「ミニ肝臓」を用いた検証に着手する計画としています。
◎塩野義製薬(株)、ロート製薬(株)
塩野義製薬は、ロート製薬が肝硬変を対象に開発を進めている再生医療等製品候補 「ADR-001」(再生医療トピックス No.38 -肝硬変:他家脂肪由来間葉系幹細胞 静脈点滴投与 臨床試験―を参照ください)について日本での独占的な開発・販売に関するライセンス契約を締結したと発表しました(2018年9月13日)4-5)。現在フェーズ1/2の段階にあり、今後は塩野義製薬が開発を進めるとしています。同社にとって再生医療等製品の開発は初めてです。
ロート製薬は2013年に「再生医療研究企画部」を新設し、脂肪幹細胞に着目した再生医療等製品の早期実用化を進め、「ADR-001」を創製しました。マウス肝硬変モデル、マウスNASHモデルでの検討では、肝硬変の特徴である肝線維化の改善が認められました。使用しているのは他家脂肪組織由来間葉系幹細胞で、脂肪組織は組織中の多くの間葉系幹細胞を含み、採取時の侵襲性が比較的低く、入手は比較的容易です。同社は、非代償性肝硬変患者を対象に治験を行っています。製品化を見据えると、販路を持つ製薬企業と組む必要があり、今回、戦略的投資を進めていた塩野義製薬と組むことになり、同社は京都にある培養施設で製造し、塩野義製薬が開発、販売、製造販売後調査等を実施する予定としています。
図1 肝硬変に対する再生医療等の取組
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)