NPO法人再生医療推進センター

No.109 再生医療トピックス

脳性麻痺の小児患者、臍帯血で臨床研究

高知大学

脳性麻痺注1)など脳障害の小児患者に対し、兄弟の臍帯血注2)を投与して症状改善を試みる高知大学医学部附属病院の臨床研究計画を厚生労働省の再生医療等評価部会が2020年9月24日了承しました1)。年内にも投与を開始する見通しです。


臨床研究の対象は脳性麻痺か、低酸素性虚血性脳症と診断された1歳以上7歳未満の8人が対象です。既に兄弟の臍帯血が細胞バンクに保管されているおり、免疫の型の一部が合うことが条件で、民間バンクに凍結保存した兄弟の臍帯血を輸血する計画です。輸血後2年間、安全性や運動障害の改善効果などを調べるとしています。脳性麻痺は受精から生後1ヶ月までに何らかの原因で受けた脳の損傷によって引き起こされ、生涯にわたり身体・精神の機能を著しく損なう難治性疾患ですが、脳性麻痺に対する根本的な療法はなく、リハビリテーション等の対症療法を行っているのが現状です。

臍帯血は、母親と胎児を結ぶへその緒と胎盤の中に含まれている血液です。血液のもととなる造血幹細胞が多く含まれ、白血病の治療などに使われています。その他にも様々な細胞に変化する幹細胞が含まれ、再生医療への応用が期待されています。幹細胞から出る物質は損傷した場所の炎症をおさえたり、血管や神経のネットワークを新たにつくったりする働きがあるとされています。

2006年、Duke大学のKurtzberg 研究室で、出生時に凍結保存した自己臍帯血の中に含まれる幹細胞を輸血することで脳性麻痺を機能改善するという画期的な治療法が開発されました。高い有効性から、アリゾナ大学、ジョージア医科大学、カリフォルニア大学でも臨床研究が開始されているそうです2)。高知大学でも脳性麻痺の子どもに本人の臍帯血を使う臨床研究を進めておられ、効果が一定程度確認されているそうです。

高知大学は2017年から、脳性麻痺の小児患者に対し、自分が生まれたときに採取された臍帯血を使った臨床研究を実施されています。これまでのところ、投与した6人全員に運動能力改善などの効果がみられたそうです。ただ、患者さん自身の臍帯血を保存しているケースが少ないことなどから、患者さんの家族からは兄弟の臍帯血投与を求める声が上がっていたといいます。

なお、高知大学医学部附属先端医療学推進センター臍帯血幹細胞研究班によりますと、同センターが申請した「小児脳性麻痺など脳障害に対する同胞間臍帯血単核球細胞輸血」及び「小児脳性麻痺など脳障害に対する同胞間臍帯血有核細胞輸血」の2つの計画が厚生労働省再生医療等評価部会注3)において、「再生医療等提供基準に適合している」と確認され、再生医療等提供計画の提供制限が解除された後に研究を開始することになり、詳細については以下の日程で記者発表を行うとのことです3)


◇同胞間の臍帯血を用いた臨床研究に関する記者会見

日 時:令和2年9月30日(水)15時~16時

場 所:高知大学医学部 管理棟3階 特別会議室(高知県南国市岡豊町小蓮)

出席者:高知大学医学部附属先端医療学推進センター 名誉センター長 相良祐輔

高知大学医学部附属先端医療学推進センター センター長 本家孝一

高知大学医学部産科婦人科学 教授 前田長正

高知大学医学部小児思春期医学 教授 藤枝幹也

(記者会見に関する問合せ先)高知大学医学部・病院事務部 総務企画課 広報係(TEL:088-880-2723)

(用語解説)


(参考資料)

  1. 朝日新聞DIGITAL:脳性まひの子、臍帯血で再生医療 きょうだいから輸血、臨床へ、2020年9月24日
  2. 高知大学医学部先端医療学推進センターウエブサイト:脳性麻痺に対するヒト臍帯血幹細胞輸血治療
  3. 高知大学医学部付属病院ウエブサイト:同胞間の臍帯血を用いた臨床研究を開始します

(y. moriya / 2020.10.06)