京都大学ウイルス・再生医科学研究所の研究チームは、ヒト間葉系幹細胞由来の腎臓組織を作製して腎不全のラットに移植し、腎機能が回復したと発表しました。iPS細胞由来の腎臓組織に対する研究は当再生医療トピックスNo.29「腎臓再生 産学連携」でご紹介しました。今回は間葉系幹細胞由来の腎臓組織の作製に関する研究です。
1.はじめに
慢性腎臓病は慢性に経過するすべての腎臓病を指しますが、慢性腎臓病の原因には様々なものがあります。糖尿病、高血圧などの生活習慣病や慢性腎炎が代表的でメタボリックシンドロームとの関連も深く、日本では慢性腎臓病の患者が約1,300万人と推計されています。腎機能が廃絶する腎不全に陥っても透析、あるいは移植により、生命を維持することは可能です。
我が国おける人工透析患者数は約32万人(日本透析医学会:2017年末慢性透析患者の動態調査)です。失われた腎機能は回復せず、患者さんは臓器移植を受けない限り、生涯にわたり、透析を続けなければならず、腎臓の再生医療の実用化が期待されています。腎臓移植は、腎不全患者に対する有効な治療法であるものの、慢性的なドナー不足という社会的課題があります。この問題解決へ向けて、試験管内でヒトiPS細胞から腎臓を作製する試みがなされていますが、立体的、かつ移植に適したサイズの腎臓を作製するまでには至っていません。
腎臓は、立体的な臓器の中でも最も再生が難しい臓器とされています。腎臓の再生医療についてですが、iPS細胞に期待が寄せられています。しかし、iPS細胞による臓器再生ロードマップ1)では、心臓、肝臓や血管などは、2025年までロードマップが作成されていますが、腎臓は現在のところ、基礎研究を終えるというところまでしか作成されていません。心臓や血管、角膜などはシートが作成されれば移植が可能ですが、腎臓や肺は全体に近いものを作成しなければならないからとされています。
2.iPS細胞による取組
二つの研究について概要を述べます。
(1)iPS細胞由来腎組織、体内で血管と接続
熊本大学の西中村教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす方法を開発したと発表しました(2019年7月26日)2)。同研究グループはヒトiPS細胞から作成した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす際にアクチビンが有効であることを見出しました。
(2)後腎ネフロン前駆細胞と尿管芽に分化する培養システム
京都大学iPS細胞研究所の長船教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞から後腎ネフロン前駆細胞と尿管芽それぞれに分化する培養システムを構築し、培養皿上で糸球体、尿細管などのネフロンの特徴を持った組織と集合管を連結させたヒトの腎組織を作製することに初めて成功したと発表しました3)。さらに、拒絶反応を示しにくい免疫不全マウスの腎臓被膜下のスペースに移植した腎組織が血管とつながることを確認しています。
3.間葉系幹細胞による取組
京都大学ウイルス・再生医科学研究所の町口元リサーチフェローらの研究チームは、ヒトの間葉系幹細胞から腎臓の組織を作り、腎不全のラットに移植し、腎機能が回復したと発表しました4)。研究チームは、ヒトの間葉系幹細胞を、少量のジェルと培養することにより、立体的な腎臓の組織を作製しました。
薬剤により、腎不全を起こさせたラット5匹に、それぞれ2億個余りの腎臓組織の細胞を注射して移植し、移植しないラット5匹と腎機能の変化を検討しました。その結果、移植しなかったラットは、腎機能の悪化を示す血清クレアチニン値が上昇し、10週間前後で死んだそうです。他方、腎臓組織の細胞を移植したラットは、移植から7週間後にクレアチニン値の上昇が止まり、14週間以上、生存したとしています。体内で正常な腎臓の組織ができていることも確認されたそうです。
生体内で機能する腎臓組織の作製に成功したのは世界でも例がなく、研究チームは今後、腎臓の再生医療として実用化をめざすとしています。
(y. moriya / 2020.12.01)
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