卵巣の中にある未成熟卵子は月経開始とともに成熟を始め、2週間くらい経つと、ひとつの卵子が他のものよりも成熟し、卵巣から排卵されます。排出した卵子は、卵管膨大部へ運ばれ、射精によって膣の中に入った精子(射精後に卵管膨大部にたどり着く精子は5000分の1程度)と卵管膨大部で出会います。卵子の寿命(排卵から12~24時間)と精子の寿命(射精から3日ほど)の限られた時間の中で卵子と精子が出会い、結合して受精卵になります。受精卵は受精直後から細胞分裂を始めて、子宮へと向かいます。3~4日経つ頃には16~32分割くらいに分裂した桑実胚(そうじつはい)に。5~6日目くらいで胚盤胞(はいばんほう、英: blastocyst)注1)と呼ばれる着床できる状態にまで成長し、受精後7~10日くらい経った頃に子宮内膜の中にもぐりこんで着床します1)。
受精から着床(wikipedia)
胚盤胞の構造(wikipedia)
en:Endometrium:子宮内膜、en:Inner cell mass(Embryoblast):内細胞塊、en:Trophoblast:栄養膜、Blastocyst cavity(en:Blastocoele):卵割腔
胚盤胞(はいばんほう、英: blastocyst)とは、卵割腔形成後から着床前の胚形成初期に形成される構造のことです。胚の次の形態である胚盤胞は、内細胞塊あるいは胚結節を持ち、外側に外細胞塊あるいは栄養膜(en:trophoblast)が形成されます。ヒトの胚盤胞は70-100個の細胞を含有する塊よりなり、内細胞塊は身体のあらゆる細胞に分化する能力を持っています。この細胞を取り出し培養したものが、いわゆるES細胞と呼ばれるものです。一方、栄養膜は胎盤や羊膜などの胚外組織に分化していきます2)。着床した受精卵は、絨毛(じゅうもう)突起をのばして子宮内膜に根を張り、子宮内膜と一緒に胎盤をつくります。生命が宿ること、つまり妊娠です。
上図の胚盤胞の内細胞塊(Inner cell mass(Embryoblast))を取り出して、シャーレで培養して増やしたものが再生医療で利用されるES細胞ですが、通常の自然の摂理通りに卵子と精子による受精後の胚盤胞から取り出されます。
ところが、この胚盤胞をヒトのiPS細胞やES細胞から世界で初めてつくったと、米国とオーストラリアのチームがそれぞれ3月18日付で英科学誌ネイチャーに発表しました3-6)。この技術のその先の未来は細胞から新たな生命を作る技術であり、遺伝子操作されたヒトクローンを作る技術につながる可能性があり、倫理的な課題が出てくるだろうと考えられます。
ここで作成された胚盤胞は、成長した受精卵と遺伝子の働きが似ていましたが、成長した受精卵にはない細胞が含まれるなど大きな違いもあり、子宮に入れても胎児にはならない様です。これらの研究の本来の目的は、妊娠初期に発生するヒトの胚発生と障害の研究のために、in vitroでのヒトの発達を研究するための代替手段を提供する事にあると考えられます。
Leqian Yuらは、ヒト多能性幹細胞からin vitroで胚盤胞様構造を生成する効果的な3次元培養方法を開発し、この構造体を"human blastoids"と呼んでいます。これは、初期の人間の発達を研究し、早期の流産を理解し、初期の発達の欠陥への洞察を得るために、容易にアクセス可能で、規模の拡大にも対応でき、用途が広い代替手段を提供するとしています5)。
Xiaodong Liuらは線維芽細胞を再プログラミングしてiBlastoidsと呼ばれるヒト胚盤胞のin vitro三次元モデルを作成しました。iBlastoidsは、胚盤胞の全体的な構造をモデル化しており、内部細胞塊様構造を示しています。さらに、iBlastoidsは多能性および栄養膜幹細胞を生じさせることができ、着床の初期段階をin vitroでモデル化することができます。これは、ヒトの胚盤胞をモデル化した規模の拡大に対応しやすくて、扱いやすいシステムが開発された事を意味し、初期のヒトの発育と初期胚発生時の遺伝子変異と毒素の影響の研究が容易になるだけでなく、体外受精に関連する新しい治療法の開発にも役立つと述べています6)。
参考資料3.の朝日新聞の記事において、京都大の斎藤通紀教授(細胞生物学)は、「論文の方法では、胚盤胞をつくる過程で遺伝子に傷が入りやすく、うまく発生していくかはまだわからない。新たな生命倫理の課題を生む可能性もある、驚きの研究。科学界の検証を待つ必要があるが、大変価値のある研究の第一歩になる報告だ」と話されています3)。
(adipocyte + neuron / 20210322)
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