NPO法人再生医療推進センター

No.84 再生医療トッピクス

再生医療等製品の開発状況

角膜上皮幹細胞疲弊症/脊髄性筋萎縮症 承認

新たに承認されました再生医療等製品と、現在までの再生医療等製品の開発状況についてご紹介致します。


1.再生医療等製品について

わが国で再生医療等製品注1)の製造・販売に対しては、医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で規制されています。厚生労働省及び各都道府県の許可・承認を受けないと再生医療等製品を製造・販売することはできません。再生医療等製品の製造販売をおこなうための手順は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構ウエブサイト1)1)にある「再生医療等製品 製造販売について」を参考にしてください。


2020年3月19日に、角膜上皮幹細胞疲弊症と脊髄性筋萎縮症を適応症とする再生医療等製品が薬事承認され、製造販売業者から保険収載を希望する旨の申出がなされています。


2.角膜上皮幹細胞疲弊症の治療用再生医療等製品2)

類別はヒト細胞加工製品(ヒト体性幹細胞加工製品)、一般名称はヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シートです。収載希望者は(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングです。販売名はネピックです。患者さん自身から採取しました角膜輪部組織から分離した角膜上皮細胞をシート状に培養して製造したヒト体性幹細胞加工製品です。角膜上皮幹細胞疲弊症注2)患者さんの眼表面に移植することにより、角膜上皮細胞が生着・上皮化し、角膜上皮を再建することを目的として使用されます。これによって、患者さん自身の健常眼から採取した角膜輪部を移植する従来の治療法では難しかった正常な角膜輪部が残存していない角膜上皮幹細胞疲弊症を治療することが可能となるとされています。


承認条件2)は次の通りです。

  • ①角膜上皮幹細胞疲弊症に関連する十分な知識及び経験を有する医師が、当該品の使用方法に関する技能や手技に伴う合併症等の知識を十分に習得した上で、角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に係る体制が整った医療機関において「効能、効果又は性能」並びに「用法及び用量又は使用方法」を遵守して本品を用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知、講習の実施等、必要な措置を講ずること。
  • ②治験症例が極めて限られていることから、原則として再審査期間が終了するまでの間、全症例を対象に使用の成績に関する調査を実施することにより、本品使用患者の背景情報を把握するとともに、本品の安全性及び有効性に関するデータ を早期に収集し、本品の適正使用に必要な措置を講ずること。
  • ③本品の製造過程にフィーダー細胞注3)として用いられているマウス胎児由来3T3-J2細 胞にかかる異種移植に伴うリスクを踏まえ、最終製品のサンプル及び使用に関する記録を30年間保存するなど適切な取扱いが行われるよう必要な措置を講ずること。

なお、本話題については、当センター「No.25 再生医療トッピクス 自家角膜上皮の製造販売を申請」でご紹介いたしております。また、「No.47 再生医療トッピクス iPS細胞から作製した角膜細胞、患者さんに移植、世界初」で角膜上皮幹細胞疲弊症に対する角膜細胞の移植について触れております。


3.脊髄性筋萎縮症に対する再生医療等製品2)

類別は遺伝子治療用製品(ウイルスベクター注4)製品)、販売名はゾルゲンスマ点滴静注です。収載希望者はノバルティスファーマ(株)です。当該製品は、脊髄性筋萎縮症(SMA)注5)の原因遺伝子であるヒトSMN遺伝子を搭載した非増殖性組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)注6)を成分とする再生医療等製品です。当該製品が患者さんの運動ニューロンや筋細胞に感染し、当該製品に搭載された遺伝子発現構成体が細胞の核内にエピソーム注7)として留まり、ヒトSMN遺伝子は長期間安定して発現します。SMAの原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補い、発現したSMNタンパク質によって筋細胞の死滅を防ぎ、神経や筋肉の機能を高めることで、SMA患者さんの生命予後の改善が期待されます。脊髄性筋萎縮症の発症が予測される患者さんも含みますが、ただし、抗AAV9抗体注8)が陰性の患者さんに限るとされています。


承認条件2)は、以下の通りです。

  • ①国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用の成績に関する調査を実施することにより、当該製品使用患者の背景情報を把握するとともに、同製品の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本品の適正使用に必要な措置を講ずること。また、製造販売後調査等における対象患者の長期成績について、解析結果を厚生労働省及び医薬品医療機器総合機構宛て報告するとともに、必要に応じ適切な措置を講ずること。
  • ②脊髄性筋萎縮症に関する十分な知識及び経験を有する医師が、当該製品の臨床試験成績及び有害事象等の知識を十分に習得した上で、脊髄性筋萎縮症の治療に係る体制が整った医療機関において、「効能、効果又は性能」並びに「用法及び用量又は使用方法」を遵守して本品を 用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知等、必要な措置を講ずること。
  • ③「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年 法律第97号)」に基づき承認された第一種使用規程を遵守して本品を用いるよう、その使用規程の周知等、必要な措置を講ずること。

4.再生医療等製品の開発状況2)

再生医療等製品の承認及び開発状況について「再生医療等安全性確保法の施行後5年を目処とした検討について3)」を参考にまとめました。


表1 再生医療等製品の開発状況3)
開発企業 品目 対象疾患 関係者 備考
(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング ジェイス(自家培養表皮) 重症熱傷※1,先天性巨大色素性母斑※2,表皮水疱症※3 東邦大学医療センター大森病院 石河教授 ※1 2007年10月29日承認
※2 2016年9月29日承認
※3 2018年12月28日承認
ジャック(自家培養軟骨) 膝関節軟骨損傷 2012年7月27日承認
ネピック(自家角膜輪部由来角膜上皮細胞シート) 角膜上皮幹細胞疲弊 大阪大学
西田教授
2020年3月19日承認
JCRファーマ(株) テムセル(同種間葉系幹細胞) 急性移植片対宿主病(GVHD)※1,表皮水疱症※2 ※1 2015年9月18日承認
※2 2019年3月22日承認申請
テルモ(株) ハートシート(自己骨格筋芽細胞由来細胞シート) 重症心不全 大阪大学
澤教授
2015年9月18日承認
ニプロ(株) ステミラック(自己間葉系幹細胞) 脊髄損傷 札幌医科大学
本望教授
2018年12月28日承認
先駆け審査指定品目
ノバルティスファーマ(株) キムリア(CAR-T療法) B細胞性急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 2019年3月26日承認
ゾルゲンスマ点滴静注(遺伝子治療用製品) 脊髄性筋萎縮症 2020年3月19日承認
アンジェス(株) コラテジェン筋注用4mg 慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善 大阪大学
森下教授
2019年3月26日承認
未承認(再生医療)
(株)日本再生医療 自家心臓内幹細胞 小児先天性心疾患の心機能改善 岡山大学
王教授
先駆け審査指定品目
(株)セルシード 口腔粘膜由来食道細胞シート 表在性食道癌の術後創傷 東京女子医科大学
岡野教授
先駆け審査指定品目
大日本住友製薬(株) 非自己iPS細胞由来ドバミン神経前駆細胞 パーキンソン病 京都大学CiRA
高橋教授
先駆け審査指定品目
(株)ヘリオス ヒト(同種)成人骨髄由来多能性前駆細胞 急性期※1の脳梗塞 先駆け審査指定品目※1(発症後18~36時間)
大塚製薬(株) NY-ESO-1・siTCR遺伝子治療/TBI-1301 滑膜肉腫 三重大学
珠玖教授
先駆け審査指定品目
サンバイオ(株) ヒト体性幹細胞加工品製品/SB623 外傷性脳損傷※1,慢性期脳梗塞 ※1先駆け審査指定品目
第一三共(株) G47△ 悪性脳腫瘍(神経膠腫) 東京大学
藤堂教授
先駆け審査指定品目
オンコリスバイオファーマ(株) OBP-301(テロメライシン) 局所進行性食道がん 先駆け審査指定品目

5.再生医療等技術の保険収載までの手順

再生医療等技術の保険収載までの手順を「再生医療等安全性確保法の施行後5年を目処とした検討について3)」を参考に図解しました。

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図1 再生医療等技術の保険収載までの手順3)


(用語解説)

  • 注1 再生医療等製品:人又は動物の細胞に培養等の加工を施したものであり、身体の構造・機能の再建・修復・形成するもの、あるいは疾病の治療・予防を目的として使用するもの、また遺伝子治療を目的として、人の細胞に導入して使用する製品であって、政令で定めるものをいいます。
  • 注2 角膜上皮幹細胞疲弊症:結膜と角膜の境界領域である輪部に存在する角膜上皮幹細胞が、先天的もしくは外的要因によって消失することで発症する疾患です。角膜が混濁し、視力の低下や、眼痛などの臨床症状が見られます。
  • 注3 フィーダー細胞:分化や増殖を起こさせようとする目的の細胞の培養条件を整えるために用いる補助役を果たす他の細胞種を意味します。同細胞は増殖しないようにあらかじめガンマ線照射や抗生物質によって処理されます。
  • 注4 ウイルスベクター:遺伝物質を細胞に搬送できるように設計されたものです。ウイルスは、感染した細胞内でゲノムを輸送する特殊なメカニズムを構築できるよう進化しました。ウイスルベクターには特定の用途に対してそれぞれ長所や短所を持つレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および単純ヘルペスウイルスなどの細胞の遺伝子構造に核酸を送るために使われます。
  • 注5 脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA):筋肉を動かす指令を出す運動神経細胞が変化したり、消失していくことでさまざまな症状があらわれる病気です。脊髄性筋萎縮症を有する患者さんの割合は10万人に1人といわれています。
  • 注6 アデノ随伴ウイルス:増殖及び非増殖のいずれの細胞にも遺伝子導入が可能です。アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクターと比較して、免疫原性が低く、動物個体への遺伝子導入にも適しています。また、非病原性ウイルスであるため、安全で取扱いの容易なウイルスベクターとして広く使用されています。
  • 注7 エピソーム:細胞が本来もっている染色体とは別に,比較的短い環状DNAが独立した染色体として安定的に維持されたものをいいます。
  • 注8 抗AAV9抗体:アデノ随伴ウイルス(AAV)の血清型の一つです。AAV1,AAV2,AAV4,AAV5,AAV6,AAV8,AAV9などがあり、AAV感染の様々な段階の特性評価に適しており,AAVの集合過程の解析に非常に有用とされています。

(参考資料)

  1. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構ウエブサイト:再生医療等製品の製造販売について
  2. 厚生労働省ウエブサイト:再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて、中医協 総-4 2.2.25
  3. 厚生労働省ウエブサイト:「再生医療等安全性確保法の施行後5年を目処とした検討について、資料2

(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)