NPO法人再生医療推進センター

No.107 再生医療トピックス

iPS細胞由来網膜シートを今秋、移植へ

1.はじめに

目の疾患に対する再生医療等の臨床研究・治験の取組みは図1に示す通り、滲出型加齢黄斑変性、角膜上皮幹細胞疲弊症、水疱性角膜症、網膜変性疾患などに対して行われています。取組の内で、遺伝性疾患の網膜色素変性注1)に対して、神戸市立神戸アイセンター病院が申請したヒトiPS細胞由来網膜シートを移植する臨床研究計画は、厚生労働省の厚生科学審議会再生医療等評価部会で了承されました(2020年6月11日)1)が、同病院は、今秋にiPS細胞で作製した神経網膜シートの移植手術実施する方針のようです2)。ここでは同移植手術についてご紹介いたします。当該研究に関しては、No.72 再生医療トッピクス「網膜色素変性に関する二つのアプローチ」とNo.95 再生医療トピックス「iPS視細胞移植の臨床研究を了承」で取上げております。


2.iPS視細胞移植の臨床研究の概要

iPS細胞で作製した神経網膜シートの移植手術を、神戸市立神戸アイセンター病院が今秋に実施を計画されています。移植手術の対象は網膜色素変性症の患者さんです。光を感じる網膜の視細胞が周辺から死滅することで視野が狭まり、最終的には失明に至る疾患です。国の指定難病である網膜色素変性は有効な治療法がない遺伝性疾患で、我が国の失明原因の第2位の疾患であり、現在、国内に約4万人近い患者さんがおられるとそうです。

目に関するiPS細胞を使った臨床研究・治験は、これまで2014年に「網膜色素上皮シート」、2017年に「網膜色素上皮細胞」、2019年には「角膜上皮細胞」などの移植手術があります。いずれの疾患も、他に治療法がありますが、網膜内の細胞減少によって徐々に視力低下などが進む網膜色素変性に対しては根本治療法がなく、iPS細胞による再生治療に期待がかかります。

同移植手術のねらいは、移植する神経網膜シートが拒絶されることなく定着し、がん化しないことなどを確認することにあります。移植の対象は、2人の網膜色素変性の患者さんです。網膜色素変性は、光を感じる網膜の視細胞注2)が正常に機能しない、あるいは失われることで、失明するおそれもあるとされています。

今回の移植手術では、iPS細胞から作製した視細胞になる直前の前駆細胞を使った直径約1mm、厚さ約0.2mmのシートを1~3枚、網膜下に挿入し、再び正常に光を受けとめられるようにすることがねらいです。移植には京都大学iPS細胞研究所が、健常者から作製して備蓄しているiPS細胞が使用されます。神戸市立神戸アイセンター病院で移植手術が行なわれ、腫瘍や拒絶反応の有無など、安全性を1年かけて評価すると計画です。

同臨床試験を進めている研究チームによりますと、成人の網膜は千数百㎜2あり、今回の移植で移植できるのは面積にして数%程度であり、患者さんの視界が格段に変わることは期待しにくいですが、臨床試験のレベルが上がって移植面積が増えれば、光だけでなく、色を識別する能力につながることも期待できるとしています。安全性が確認できれば、枚数を増やすことを検討されています。


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図1 目の疾患に関する臨床研究・治験の取組み


(用語解説)


(参考資料)

  1. 朝日新聞DIGITAL:iPS視細胞移植、国が臨床研究了承 網膜色素変性の患者対象、2020年6月12日
  2. YAHOO!ニュース:iPS視細胞、今秋移植へ 世界初、中枢神経再生目指す 神戸アイセンター病院、2020年9月14日

(y. moriya / 2020.09.22)