2019年10月23日に「iPS細胞由来の心筋シートによる重症心不全の治験」に関する報道1)-3)について、ご紹介致します。
大阪大学の澤教授らの研究チームは、iPS細胞から作製した心臓の細胞をシート状(心筋シート)にして重症心不全患者さんの心臓に直接貼り付ける再生医療の臨床試験(治験)を近く国の審査機関に申請する方針です1)-3)。同心筋シートの移植に対する臨床研究計画は2018年5月に認められていますが、保険が適用される一般的な治療法としての実用化を目指して治験を実施する計画です。なお、当該治療治験の計画は同大学内の審査委員会の承認が得ています。iPS細胞を使った心臓病治療の手術は世界で初めてであり、申請が認められれば今年度内をめどに1例目の患者さんの手術を実施したいとしています。
澤教授らのチームは、これまで患者さんの太ももから取った細胞(筋芽細胞)をシート状に作製して心臓に貼る治療を実施し、2015年に再生医療製品として条件付き承認を得ています。その後、iPS細胞から作製した心筋シートを移植する臨床研究を進めておられましたが、2018年6月の大阪北部地震で同大学内の細胞培養施設の使用が困難となり、同臨床研究は予定から遅れていたとのことです。
この度、保険が適用される一般的な治療法としての実用化を目指した治験の計画が同大学から承認され、同チームは、臨床研究と並行しながら治験を進める計画です。臨床研究と治験はともに安全性や有効性を確かめるのが目的ですが、治験を早く実施すれば保険適用される治療法として実用化の時期が早まる可能性があります。
iPS細胞由来の再生医療の臨床研究及び臨床試験についての状況ですが、理化学研究所などのチームが2014年、加齢黄斑変性の患者さんにiPS細胞から作製した網膜細胞を移植する世界初の手術を実施しました。京都大学のチームは2018年11月にパーキンソン病の患者さんにiPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を移植する手術を行いました。大阪大学のチームは2019年7月に、iPS細胞から作製した角膜の組織を角膜上皮幹細胞疲弊症の患者さんに移植する手術をしました。
また、国の審査が終わり、実施に向けた準備が進められている臨床研究としては、京都大学の別のチームは血液の病気(再生不良性貧血)の患者にiPS細胞から作製した血小板を投与する臨床研究を行う予定です。慶應義塾大学のチームは事故などで脊髄を損傷し、体が動かせなくなった患者(亜急性期脊髄損傷)さんにiPS細胞から作製した神経のもとになる神経前駆細胞を移植し、機能の回復を目指す臨床研究を計画しています。詳しくは、当再生医療トピック、「No.16 再生医療トッピクス iPS細胞 臨床研究が本格化(1)」、「No.17 再生医療トッピクス iPS細胞 臨床研究が本格化(2)加齢黄斑変性/心不全/パーキンソン病」、及び「No.19 再生医療トッピクス iPS細胞 臨床研究が本格化(3)脊髄損傷 再生不良性貧血 角膜上皮幹細胞疲弊症」を参照ください。
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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