我が国の末梢動脈疾患は、高齢化や生活習慣様式の欧米化に伴って、年々増加しています。ここでは、栄養や薬剤を供給可能な、実際の血管に似た3次元組織の作成に成功した研究の概要と、血管に関する臨床研究並びに治療に関する再生医療等について、再生医療実用化研究事業注1)と厚生労働省が公開している再生医療等提供計画に基づいてまとめました。
1.再生医療実用化研究事業のもとで研究開発支援中の臨床研究課題および治験課題
血管に関する臨床研究・治験の状況1)は次の通りです
2.第二種再生医療等・研究に関する提供計画2)
第二種再生医療等・研究に関する提供計画では次の通りです。
3.第二種再生医療等・治療に関する提供計画3)
第二種再生医療等・治療に関する提供計画では以下の通りです。
4.3次元構造を持つ人工血管の作製に成功
産業技術総合研究所注8)の細胞分子工学研究部門の木田グループ長らのグループは、培養対象の細胞に培養液を流したり、電気刺激を加えたりできる「組織培養デバイス注9)」を用いて、栄養や薬剤を供給可能な、実際の血管に似た3次元組織の作成に成功したと発表しました4),5)。作製に成功された人工血管は、主血管と毛細血管に分かれており、実際の血管に近い構造を持ち、培養液を流すことで、血液が臓器に運ばれるまでの環境を模倣できるということです。これにより、従来2次元的に模倣されてきた環境に比べ、より実際の体内に近い3次元的な組織の作成が可能となるため、医薬品開発、再生医療、がん研究の分野での応用が期待されます。
創薬、再生医療やがん研究の分野では、細胞と組織ゲル注10)を組み合わせてヒトの臓器や腫瘍を模倣する人工組織「3次元組織」が注目を集めているそうです。それは、同3次元組織が医薬品の検査、失われた臓器・組織の置換え、抗がん剤の試験への応用が期待されているからです。臓器・組織を治療するための十分な3次元組織を作製して効率よく酸素と栄養を供給したり、また医薬品の試験のため3次元組織の内側に薬剤を流し込んだりするためには、この3次元組織に、実際の組織にある動脈のように送液できる大きな血管と、そこから枝分かれする毛細血管を作ることが求められますが、困難でした。
そこで、同研究グループは、幹細胞などの研究や培養デバイスの加工技術を応用し、新しい機能を持った細胞の作製や3次元組織の開発、培養デバイスや医療機器の開発と、それらの応用を目指した研究開発を推進してきました。独自に開発した組織培養デバイスを用いて、3次元組織に実際の臓器と同じような主血管と毛細血管を作る方法を開発しました。臓器の機能を担う実質細胞注11)、血管の元になる血管内皮細胞、血管の形成を助ける間葉系幹細胞を培養皿で増やした後、コラーゲンと混ぜて培養デバイスに流し込んで3次元組織を作製しました。この3次元組織にあらかじめ埋め込んでおいたニードルを引き抜いてトンネルを作り、そこに培養デバイスの流路から血管内皮細胞を流し込み、2時間程度、培養することで、トンネルの壁を覆うように血管内皮細胞を接着させて主血管としました。その後、培養デバイスに培養液を流しながら培養することで、主血管の周りの血管内皮細胞の活動を促進して毛細血管を作らせました。なお、培養液からの酸素・栄養の供給や、流れから受ける刺激によって血管内皮細胞が活性化されると思われるそうです。作製した3次元組織は、培養デバイスで培養液を流しながら1週間程度維持することができたとそうです。
培養液を流通しながら培養した3次元組織を顕微鏡で観察されたところ、主血管から毛細血管が枝分かれしている様子が観察できたそうです。また、実質細胞として肝臓に由来する細胞(肝細胞や肝がん細胞)を使うことで、組織の中で肝臓の機能を示すタンパク質の発現や、薬剤の代謝を計測できたそうです。この技術は細胞の種類やデバイスの形を変えることで、肝臓だけでなく膵臓や脳などのさまざまな臓器の一部を模した組織や、膵がん、脳腫瘍などを作ることが可能だそうです。
今後は、より大きな組織(臓器)の作製や、がんモデルでの抗がん剤の評価を行い、iPS細胞由来の細胞を用いた組織の大量生産・高機能化や、他のさまざまな種類の細胞を材料に使って脳や膵臓、小腸を作製するとしています。
(用語解説)
(参考資料)
(NPO法人再生医療推進センター 守屋好文)
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